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11月の終わりに寄せて [雑話]

はや11月も末日になりました。
11月にちなんだ話題として、萩尾 望都さんの「11月のギムナジウム」を取り上げたいと思っていました。


11月のギムナジウム (小学館文庫)

11月のギムナジウム (小学館文庫)

  • 作者: 萩尾 望都
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1995/11
  • メディア: 文庫

でも、11月も初旬はあまりに暖かくて、この作品の季節感にそぐわないかなと、躊躇しているうちに時日は過ぎて、寒さはつのり、各地に雪の話題も聞くようになったと思ううちに、今日が今年最後のチャンスとなりました。
萩尾 望都さんと言えば、永遠のいのちを持つバンパネラと人間との交わりを哀しく描く「ポーの一族」や、ドイツのギムナジウム(中等学校)を舞台にした少年達の物語「トーマの心臓」などの、文学の香気高い大作の名が、まず浮かびます。

ポーの一族 全巻セット (小学館文庫)

ポーの一族 全巻セット (小学館文庫)

  • 作者: 萩尾 望都
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/03/01
  • メディア: 文庫

 

トーマの心臓 (小学館文庫)

トーマの心臓 (小学館文庫)

  • 作者: 萩尾 望都
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1995/08
  • メディア: 文庫

トーマの心臓1 萩尾望都Perfect Selection 1 (フラワーコミックススペシャル)

トーマの心臓1 萩尾望都Perfect Selection 1 (フラワーコミックススペシャル)

  • 作者: 萩尾 望都
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2007/07/26
  • メディア: コミック


学生の頃、「大の男」が、いわゆる「少女マンガ」なんかを手にするなんて、恥ずかしくてとても出来やしない。はずでしたが、一部の「女子学生」のブームに影響されて、「少女フレンド」「マーガレット」「りぼん」「なかよし」など、喫茶店にある雑誌のバックナンバーをまとめ読みしたことがありました。
バイオレンスと下卑たギャグ、底の浅いスポ根などが主流だった少年マンガに比べて、そこには、描線も美しく、ストーリー展開も安易でなく、上質な文学の香りのする作品が多く、侮れない世界があることを知りました。「つる姫じゃ~!」などの、型破りなギャグマンガも楽しく愛読しましたが。

つる姫じゃ~っ! (1) (中公文庫―コミック版)

つる姫じゃ~っ! (1) (中公文庫―コミック版)

  • 作者: 土田 よしこ
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1995/07
  • メディア: 文庫

 

つる姫じゃ~っ! (2) (中公文庫―コミック版)

つる姫じゃ~っ! (2) (中公文庫―コミック版)

  • 作者: 土田 よしこ
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1995/07
  • メディア: 文庫


そうしたなかで、「少女コミック」に連載された萩尾望都さんの作品は、取り分けて秀逸でした。

「ユリスモールへ
これがぼくの愛
これがぼくの心臓の音
きみにはわかっているはず」
(「トーマの心臓」)



傷つきやすく鋭敏な思春期の少年たちの、切ないまでに美しい心の動きを見事にとらえた「トーマの心臓」に、ドイツ文学の空気を感じ取ることは、ごく自然な第一印象でした。私が、高校時代最も耽溺した作家は、ヘルマン・ヘッセでしたから、ここまでその世界を「映像化」できた作品に衝撃を覚えるほどでした。ヘッセの作品は、新潮文庫版として出版されていたものは、高校時代にほとんど読んだと思いますが、中でも繰り返し読んだのは「デーミアン」でした。「トーマの心臓」には、同じ空気が流れていると感じました。

デミアン (新潮文庫)

デミアン (新潮文庫)

  • 作者: ヘッセ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1951/12/04
  • メディア: 文庫

現に萩尾さんご自身、ヘッセやロマン・ロランからの影響については、しばしば、色々な場で語っておられます。


2012年に、紫綬褒章を受章された時のNHKのインタビューを引用します。

Q)いつごろヘッセを読んでおられましたか?

20歳ごろでしょうか。自分自身もなんかいろんなことを考えて、例えば私はなぜ存在しているんだろうとか、どんな風に生きて行けばいいんだろうとか、そういうことを悩むわけですが、日常の生活ではそんなことを考えていないで、ちゃんと勉強しなさいとかちゃんと就職しなさいとか、なんかきちんとやることというのが求められる。きちんとやるためにいろんな悩みを考えていると邪魔だから、そんなことは考えないように生きていく方向に大体は行くんですね。確かに邪魔だなと思うんですけど。

ころがヘッセなんかは悩みを正面から書いて、自分がどんな風に迷っているか、自分がどんな風に生きていけばいいか、自分はこういうことを選択したけどこれでいいのかと反復したり周りの人に助けられたり、ある時は失敗したり、うまくいったりしながら。迷いもいいんだ、迷ってもいいんだ、いろんな事を考えてもいいんだということを、ヘッセの小説から教えられたと思います。


もうひとつ、トーマスマンの「トニオ・クレーゲル」も、高校時代の私のお気に入りでした。北杜夫さんが、「トニオ」のカタカナの形態的連想から、自分のペンネームを付けたというエピソードを後に読み、嬉しく思ったことでした。その「トニオ・クレーゲル」の世界とも響き合うものが、「トーマの心臓」にはあるように思えました。

トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す (新潮文庫)

トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す (新潮文庫)

  • 作者: トーマス マン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1967/09/27
  • メディア: 文庫

 

どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)

どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)

  • 作者: 北 杜夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/09/28
  • メディア: 文庫



トニオクレーゲルの冒頭の一節。高橋義孝氏の訳が、私は一番好きでした。

冬の太陽は乳色にかすれて厚い雲におおわれたまま、狭い町の上にわずかにとぼしい光を投げていた。破風づくりの家の立ち並んだ路地々々は、じめじめとして風が強く、時おり氷とも雪ともつかぬ柔らかい霙みたいなものが降ってきた。
 学校がひけた。石を敷きつめた中庭から格子門へかけて、解放された生徒たちは、雪崩をうって外に出ると、右に左に思いおもい急いで帰って行った。年のいった少年たちは、勿体ぶって本の包みを左の肩に高々と押しつけ、昼飯を目ざして、右手で舵をとりながら風に逆らって歩いて行く。小さな生徒たちは、氷まじりの泥をあたりにはね返しながら学校道具を海豹皮のランドセルの中でがちゃがちゃいわせて、嬉々として小走りに走って行く。けれどもときどき、落着いた足どりで歩いてくる上級教師の、ヴォータンのような帽子とユピテルのような髭に出会うと、みんな恭しい目つきでさっと帽子を脱ぐ。……
「やっと来たね、ハンス君」長いあいだ、車道で待っていたトニオ・クレーゲルは微笑を浮べながら友達のほうへ寄って行った。相手はほかの仲間たちと校門を出て、そのまま一緒に帰り去ろうとしていた。……「ええ」ときき返して友達はトニオを見つめた。……「ああ、そうだったっけ。じゃこれから少し一緒に行こう」


「11月のギムナジウム」は、この「トーマの心臓」の姉妹編といえる短編作品で、両作品には、共通する少年達が登場します。


あらすじを、wikiから引用します。

11月の第1火曜日の午後、ヒュールリン全寮制ギムナジウムにエーリク・ニーリッツが転入してきた。転入早々、このギムナジウムのアイドル、トーマ・シューベルとうりふたつのため大騒ぎとなり、短気で気の強いエーリクはトーマの無礼な態度に怒り、トーマを殴ってしまう。家庭内の問題で密かに悩んでいたエーリクは、授業中、オスカー・ライザーに図星をさされたため思わず彼を殴り教室を飛び出し、草地で授業をエスケープしていたトーマと偶然遭遇する。トーマは15年前に死んだ兄とエーリクは特徴がそっくりであると告げ、仲直りをしようともちかけるがエーリクはそれを拒否する。トーマはエーリクと自分の関係を学級委員長のフリーデルに打ち明ける。その後、トーマは雨の週末休暇にエーリクになりすまして彼の母親に会ってきたが、その際にひいたカゼがこじれて肺炎にかかり、数日後、病死する。そして、トーマの葬儀の翌日、フリーデルはエーリクにすべてを打ち明ける。

取り返しのつかなさが、痛々しく心に残ります。

 

 


小学館文庫版「11月のギムナジウム」に、合わせて収録されている作品に「雪の子」があります。

 

資産家の親戚・ブルクハルト家に招かれたブロージーが、途中森の中で少女に出会います。訪ねた家には老人と、さっきの少女にそっくりな少年、エミール・ブルクハルトがいました。

 

ブルクハルト家の跡継ぎのエミールは、実は女の子だったのです。両親を亡くした彼(女)は、男の子なら跡継ぎとして引き取るという祖父の言葉により、「少年」として育てられたのでした。医師、執事など一部の人間の他は、真実を秘匿したままで。

「変声期なんてぼくにはこない。その前に死ぬんだ。」

「ぼくは、自分が一番美しいときに死ぬつもりだ。……来年じゃおそすぎる。きっと病気がぼくをおそってやつれてみにくくなるだろう。そんなのは好きじゃない。」  

初雪が地上を覆った朝、予告通り、エミールは美しい姿のまま死を迎えるのです。

日本列島を寒気が覆い、今年一番の冷え込みが続きます。

 

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「11」つながりで、「11人いる!」も取り上げたかったのですが、またの機会にします。


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