郷愁という名のメルヘン カルロス爺さんの思い出 連載第3回 [木下透の作品]
このカテゴリーの文章は、おおむね、私自身の回想に関わるので、常体(だ・である調)で書くことにする。
木下透は、私の高校時代の筆名である。彼の作品を紹介するのが、趣旨である。未熟さは、その年齢のなせる業なので、寛容な目で見てやっていただきたい。
高三の時に書いた「短編小説」を、連載で紹介したい。今日は、その第3回目。
郷愁という名のメルヘン
カルロス爺さんの思い出
木下透
連載第3回
嶺の雪も溶けて、ぼくらの村にも春が訪れた。
村の小学校での、うんざりする長い授業が終わると、子どもたちは一斉に校門を飛び出した。
さわやかなそよ風が、萌えいずる若草の目をゆるがす。
子供たちの栗色のうぶ毛をゆるがす。
柔らかに額にまといつく髪の毛をゆるがす。
ガタガタ揺れるランドセルと、額を流れる快い汗を楽しみながら、ぼくは、爺さんの小屋まで一目散にかけてゆく。ぼくらの小学校からほんの二百メートルばかりの所にある水車小屋が爺さんの家だ。
小川の土手には、つくしんぼやたんぽぽがそおっと顔を出している。
あんなに固く閉ざしていたネコヤナギや野いばらが、柔らかに芽ぶいていて、それを見つけた少年に、素直で新鮮な驚きに目を見張らせたのだった。
そっと芽を出した芝草に腰を下ろして、健康な早春の生気に酔いしれている時、ボクの右手を何かがくすぐった。
振り向くとそこには、一匹の子犬が――――ほんとに小っちゃくて、そう、ぼくの両てのひらに楽に隠れそうな大きさだったが、それでいて丸々太ってて、黒いまん丸い瞳が利口そうにキラキラしてる――――その短いしっぽをピンと垂直に立てて、しきりに左右にふっていた。
「あれ、おまえがぼくの手をなめたの?」
子犬は首をかしいでぼくを見上げてる・
猜疑を知らぬ無邪気な眼差しが、たまらなく可愛い。
「おまえ、捨てられたのかい?」
四つんばいになってのぞきこんでそう言ったぼくの顔に、ひんやり湿った鼻づらをくっつけてきた、
「ねえ。おまえ。ぼくを好きなの?」
ぼくはなんだかうれしくて、そこら中を駆け回った。
子犬はどこまでもぼくについてきた。小走りに、転げるように、それでも一所けんめい。
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