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郷愁という名のメルヘン カルロス爺さんの思い出 連載第6回 [木下透の作品]

このカテゴリーの文章は、おおむね、私自身の回想に関わるので、常体(だ・である調)で書くことにする。

木下透は、私の高校時代の筆名である。彼の作品を紹介するのが、趣旨である。未熟さは、その年齢のなせる業なので、寛容な目で見てやっていただきたい。

高三の時に書いた「短編小説」を、連載で紹介したい。今日は、その第6回目。

 


 

郷愁という名のメルヘン

カルロス爺さんの思い出 

木下 透

連載第6回

その夜、ぼくはまた爺さん家(ち)を訪ねた。
爺さんはこんな話をしてくれた。例のゆりいすに背をもたせ、つま先で床をとん、とんと鳴らしながら。
「これは少し難しい話だが、わかるだろうねえ。ぼうやも、もう大きいんだから。」
そう前置きして、それはそれは真剣な目つきでぼくの目を見入って、語り始めた。
「坊や、知っているだろうかな。Hという小さな村を。そう。前にも話したことがあったけかな。
国境をへだててこの村から十里ほども離れた、山奥の本当に小さな村じゃ。
わしらが疲れ果ててその村に着いたのは、もう夜になってからだった。
今でもよく覚えているが、その日は、雨あがりの月が、こうこうと地上を照らしておった。森のかしやひいらぎや、緑の濃さを増した木々の若葉が風に揺れて、何かこう神秘的に輝いていたっけ。
わしらは、飢えと渇きで、もうくたくただった。その村の灯りを見た時は、ほんとうにほっとしたものだった。そして、しかし同時に、ここは敵地で、村に住んでいるのは敵国民なのだと言うことを思いだし、再びキリキリと神経質に身構えねばならなかった。
 しかし、わしらは、これ以上戦う気力はなかった。とにかくわしらは疲れ、弱り切っていた。脚や手、顔面の傷口から流れ出た血が、衣類、そで口にこびりついて固まり、そしてまた、その下から新しい血がにじみ出ていた。
三日前のたたかいは壮絶だった。わしらの仲間達はばたばたと倒れた。
立ち上がって「進め」の号令をかけた隊長が、頭を打ち抜かれて倒れた。
銃の台尻で、わしのあごをなぐったことのある軍曹が、わしの隣でもんどりうって倒れた。
わしと仲のよかった炊事兵が、腕を吹き飛ばされてうめいている。
十八歳の少年兵が、母親の名を呼ばずに死んだ。
騎馬の兵が、馬をかばって撃たれた。馬も流れ弾に当たって死んだ。
いつも陽気だった二等兵が、そいつはわしと同じ部屋で寝起きしたこともあったが、「オレはまだ死にたくない。」と言って死んだ。
「戦争は嫌いだ」というのが口癖だった若い士官が、故郷の妹を思いながら死んだ。
耳をつんざく爆発音、皮膚の焦げる異様なにおいが、細かい埃に混ざって口の中に入りこむ。とびしきる血が乾いた砂にどす黒く染みこむ。
戦いが終わった時、わしら二百人もいた部隊のうち、生き残った者は、実にわずかだった。
とにかく、わしは生き残った。そしてそれから三日間、わしらは歩き続けた。何のためでもなく、ただ、生きるために、わしらは歩いた。わしらが、兵士という名を得て以来、上官の命令なくして為した、唯一の行為だった。一つの、巨大な、狂った機械の一部分が、初めて人間になろうとして、歩いた。死ぬために戦地に送られたわしらが、生きるために、歩いた・・・・。
そしてようやく、この小さな村にたどり着いたのだった、途中でまた、三人が死んだ。 けがをして歩けなかった五人は見捨てた。
生き永らえたのは、わずか十人足らずだった。
わしらが銃をかまえて、その実びくびくしながら、村に入り込んだのを見つけたのは、四、五人の村の子供たちだった。
おびえて、門戸のかげにかくれている村人達の間から、村長らしい男が、二三人の若者を従えて現れた。
言葉はどうやら通じた。
彼らはかなり友好的だった。
村人達もしだいに警戒を和らげて、わしらに近づいて来た。彼らは素朴で、人なつっこい笑顔さえ浮かべていた。
実際、この村までは、戦争は及んでいないらしかった。
この山奥の、住民が三十人もいない小さな村には、何かその時のわしらには不似合いな平和が漂っていた。
彼らは、その夜の宿と、食事を約束した。
わしらは一軒の百姓家に案内された。
村長の妹だという女と、二人の子供、それに年老いた下僕が、そこにはいた。
十六歳の姉は、長いまつげと美しい瞳をもっていた。
十四歳の弟は、こわいもの知らずの、しかしもの寂しい、少年期特有のきびしさを、その横顔に秘めていた。
母は、小ぶとりの善良な百姓女だった。夫を最近失ったのだという。
下僕は、白髪の、やせた、しかし何かしら威厳をたたえた朴訥さを感じさせる老人だった。彼らは、わしらを、賓客のようにもてなしてくれた。
けがの手当をしてくれる少女の長い髪が、わしらの手に、ほゝに触れる時、わしらは、忘れていた郷愁を感じずにはいられなかった。
わしらは、久しぶりに安らげた。
そして、その落ち着いた、なごやかな雰囲気は、わしらを涙ぐませさえした。
わしらは、戦のことを、その不本意な暴力のことを、しばし忘れてさえいた。
その夜、わしらは、久しぶりにぐっすり眠った。
そして、目覚めた時、庭先の木々には小鳥がさえずり、透明な風が、快くうなじをくすぐった。

つづく


 昨夜の晩餐
長女が、婿殿が漁師さんからいただいたのでお裾分けだと言って、山盛りのエビ・カニを届けてくれました。
孫達親子も呼んで、総勢八人で、ごちそうになりました。贅沢な話ですが、一晩では食べ切れませんでした。
 
瀬戸内海産ガラエビ。
もちろん、偽装表示ではありません。 
ぷりっぷりで、身がたっぷり入っています。

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ワタリガニ。
ガザミとも言います。
 塩茹でして下さっています。
このまま殻を剥がして、濃厚な身とカニ味噌を食べる醍醐味に、孫達も大はしゃぎでした。
濃いオレンジ色の卵も、絶品でした。
鍋の具にもたっぷり使い、 今朝も残りの汁でカニ雑炊に。

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