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郷愁という名のメルヘン カルロス爺さんの思い出 連載第8回 [木下透の作品]

このカテゴリーの文章は、おおむね、私自身の回想に関わるので、常体(だ・である調)で書くことにする。

木下透は、私の高校時代の筆名である。彼の作品を紹介するのが、趣旨である。未熟さは、その年齢のなせる業なので、寛容な目で見てやっていただきたい。

高三の時に書いた「短編小説」を、連載で紹介したい。今日は、その第8回目。


郷愁という名のメルヘン

カルロス爺さんの思い出                            

連載第8回


しばらく続いた銃声がふとやんだ時、わしは見つけた。村の入り口の道に立ちすくんでいる少年の姿を。
彼は、そこまで駆けてきたための、耳のあたりを激しく打つ脈拍と、ゼイゼイという息切れを忘れたかのように、息を殺して、しばし呆然と立ち尽くしていた。
そしてしばらくその状態でいた後、彼のひざは、力を失ってへなへなとくずれた。
彼は、左手の4本の指を強く噛みしめて、嗚咽の漏れるのをこらえた。
黒っぽい緑色をした涙が、ほゝを伝い、乾いた地面にぽとぽとと落ちた。
そしてついに、こらえかねて、彼はしゃくり上げながらつぶやいた。
「あくま・・・」
一発の銃声が響いた後、また陰険な静寂が訪れた。
倒れ伏す少年の胸に抱えられていた包みから転がり出たものを見て、わしらは全てを悟った。
《この少年は、ただ町の市場まで、食物を買い入れに降りていたにすぎないのだ。しかも、わしらをもてなすための食糧を仕入れるために。そんな早朝から。一里もある町まで。》
わしらは、自分らで巻き起こした悪夢を忘れるために、頭をかゝえて転げ回った。
ガンガンと自分の頭をなぐって、嗚咽した。
終戦の知らせは、その包みの中に、少年が気をきかせて買ってきた新聞によってもたらされた。
わしらは何を呪っていいのかもわからないまま、その村を去った。
少年より少し遅れて村に帰った老僕は、涙を流さずに一つの大きな穴を掘った。
狂気の終焉を知らせながら、大きな真っ赤な太陽が西の空に沈んだ。」

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爺さんは、そこで話をやめて歯を食いしばり、何度も十字を切った。
「アーメン。許し給え。どうか、許し給え。」
そして爺さん目を上げて、今度は全く抑揚のない調子で、また続きを語り始めた。
「わしらが、自分の国へ帰り着いたのは、そしてわしがこの村へ帰ってきたのは、それから一週間の後だった。
わしの家は焼けて、跡形もなかった。
わしの妻は、一人息子のヘンニィルを残して死んでいた。何も何も、戦争のせいなんだ。
はっはっは・・・、馬鹿な男は、自分の女房や子供を守るために戦争に行った。敵を殺し、味方を死なせ、罪のない人々までも殺し、幾度も死にかけてようやく生き永らえて帰って来たら、愛する者は死んでいた。」
爺さんそう言って、むりやり笑おうとしたがだめだった。
眼鏡の奥の、愛嬌のある小さな目が、なんどもしばたたくのを、ぼくは見つけた。

つづく

 


独身時代、妻に読ませたら、この場面が変に印象に残ったと言っていた。今で言う「トラウマ」みたいな影響を与えたらしい。
「郷愁という名のメルヘン」というかわいらしい標題にそぐわぬ残酷場面と言うことになる。「看板に偽りあり」、偽装表示も甚だしい。
こどもたちに平和を愛する心を育てるには、子どもたち自身が、平和で穏やかな環境のもとで健やかに育てられるよう、心を砕くべきだという。優しく、柔らかで、美しいものや思いやりの心に囲まれて、温かくヒューマンな情操を育てることが、肝要だという。
その意味では、残虐な犯罪や猟奇的な事件が毎日のように報道され、一方では希望を失って自死する人の数が記録を更新しつづける、こんな殺伐とした世相に、慣れっこになって欲しくはない。
だからといって、「はだしのゲン」の描写が残酷だからと、図書館から撤収して子どもたちの目から遠ざけるという「教育的配慮」は、まったくナンセンスだろう。歴史の中で、現に人間が為した「悪魔的行為」を、未来において繰り返しも繰り返されもせぬためには、事実を正確に知り、冷厳に受け止めることは、決定的に必要であるはずだ。
私の作品の殺戮場面は、もちろん「歴史の事実」というわけではなく、あくまでも想像に基づく創作である。ただ、その着想のきっかけには、「ソンミ村事件」があったと、今ふり返ってみて思い至る。「カリー中尉」ほか、当事者の証言によって、この虐殺事件が明るみに出たのだが、さしずめ「特定秘密法」なんかでは、国家の威信を傷つける秘密みたいなことになって、話した兵隊さんも、報道機関も、関係省庁の役人も、みんな罰せられるんじゃないかと心配なんですが。


 

 



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セイミー

ご訪問いただき有難うございます
若いっていいですね 昔の思い出 私の筆は女性ぽいと言われた
ことがあります

 
by セイミー (2013-12-12 06:19) 

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