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夕焼け その2 [私の切り抜き帳]

ショックです。
いたく落ち込んでいます。
自分の記憶の曖昧さ、でたらめさに、改めて気づかされ、「老人力」がついたなどと笑い流す余裕もありません。
というのは、こういうわけです。
一昨日、吉野弘さんの詩「夕焼け」の記事を書きました。
その続きを書きたくて、あれこれ思い巡らしていました。
そういえば、何かの映画で、この詩を生徒に朗読して聞かせるシーンがあったっけ。確か、松村達雄さん演じる国語教師が、夜間学校の生徒に読んで聞かせる場面だったよなあ。というわけで、一所懸命思い出そうとしましたが、思い出せません。
最近しょっちゅうこんなことがあります。先日は、テレビでチラリと顔を見た女優さんの名前が浮かびません。もと夫の方のお名前は浮かび、周縁のエピソードはあれこれ浮かぶのですが、名前が思い出せないのです。
あいうえお、かきくけこ---わをん。と、何度も繰り返して、これにつなげて名前を思い出そうとしますが、無理です。ほとんど二日半、この努力をしましたが、断念。ネット検索で確認するまで思い出せませんでした。
その女優さん、大ファンというわけでもないですけれど、デビューの頃からどちらかというと好感をもって見てきて、最近は、円熟味の増した演技に魅力も感じるし、レパートリーの広い歌での活躍にも注目していて、CDを買ってカーオーディオで聴く数少ないお気に入りアーティストの一人といってもいいのに。
現実の交際でも、こんなことがしょっちゅうあり、「名前を忘れた人」リスト作って、二度と忘れないようにしようと思ったりしますが、それも面倒で、二度目三度目の忘却に直面して愕然としたりするのです。トホホ。
ハナシが横道にそれました。
松村達雄さん演じる国語教師について、ネットで調べると、山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズの第26作  『寅次郎かもめ歌』でした。



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死んだ旧友の墓参りに北海道を訪れた寅さんは、旧友の娘・すみれ(伊藤蘭)の、定時制高校に通いたいという望みを叶えるために、柴又へ連れ帰ります。その定時制高校の国語教師を演じたのが松村達雄さんでした。松村達雄さんといえば、森川信さんの後を継いで2代目「おいちゃん」(3代目は下條正巳)を演じたほか、寅さんシリーズには、医者、大学教授、お坊さんなど、いろんな役で登場しました。
余談ですが、以前、このブログで過去に、この記事この記事この記事で触れた映画「まあだだよ」で、内田百閒を演じたのもこの松村達雄さんでした。人なつっこく、ひょうひょうとした、柔らかくて人間味ある人柄が、魅力的です。

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ショックなのは、『寅次郎かもめ歌』で夜間高校国語教師の松村達雄さんが朗読したのは、吉野弘さんの「夕焼け」ではなくて、実は、この詩でした。

便 所 掃 除        濱 口 國 雄  


 扉をあけます
 頭のしんまでくさくなります
 まともに見ることが出来ません
 神経までしびれる悲しいよごしかたです
 澄んだ夜明けの空気もくさくします
 掃除がいっぺんにいやになります
 むかつくようなババ糞がかけてあります

 どうして落着いてしてくれないのでしょう
 けつの穴でも曲がっているのでしょう
 それともよっぽどあわてたのでしょう
 おこったところで美しくなりません
 美しくするのが僕らの務めです
 美しい世の中も こんな処から出発するのでしょう

 くちびるを噛みしめ 戸のさんに足をかけます
 静かに水を流します
 ババ糞におそるおそる箒をあてます
 ポトン ポトン 便壺に落ちます
 ガス弾が 鼻の頭で破裂したほど 苦しい空気が発散します 
 落とすたびに糞がはね上がって弱ります

 かわいた糞はなかなかとれません
 たわしに砂をつけます
 手を突き入れて磨きます
 汚水が顔にかかります
 くちびるにもつきます
 そんな事にかまっていられません
 ゴリゴリ美しくするのが目的です
 その手でエロ文 ぬりつけた糞も落とします
 大きな性器も落とします

 朝風が壺から顔をなぜ上げます
 心も糞になれて来ます
 水を流します
 心に しみた臭みを流すほど 流します
 雑巾でふきます
 キンカクシのうらまで丁寧にふきます
 社会悪をふきとる思いで力いっぱいふきます

 もう一度水をかけます
 雑巾で仕上げをいたします
 クレゾール液をまきます
 白い乳液から新鮮な一瞬が流れます
 静かな うれしい気持ちですわってみます
 朝の光が便器に反射します
 クレゾール液が 糞壺の中から七色の光で照らします

 便所を美しくする娘は
 美しい子供をうむ といった母を思い出します
 僕は男です
 美しい妻に会えるかも知れません



私はこれを、茨木のり子さんの『詩のこころを読む』で知りました。

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濱口さんは、国鉄(現JR)の労働者で、「国労」(国鉄労働組合)の文化活動に取り組む中、1956年、国鉄詩人連盟第五回国鉄詩人賞を、この「便所掃除」で受賞します。彼は太平洋戦争では中国、フィリピンなどを転戦し、戦争体験をきっかけに詩を書き始めたと言います。
この詩を、確かに私は好きですが、松村達雄さんが朗読したのが「夕焼け」だと思い込んでいて、この詩を思い出さなかったのは、トホホでした。

だとすると、山田洋次監督の映画「学校」で、西田敏行演じる「黒ちゃん」先生が、夜間中学の生徒立ちに向かって、この詩を朗読したのだったかも知れない。と思って、調べてみると、これも違いました。

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「黒ちゃん」先生が読んだのは、実はこの詩でした。

  夕日   大関松三郎

    夕日にむかってかえってくる
    川からのてりかえしで
    空のはてからはてまで もえている
    みちばたのくさも ちりちりもえ
    ぼくたちのきものにも 夕日がとびうつりそうだ
    いっちんち いねはこびで
    こしまで ぐなんぐなんつかれた
    それでも 夕日にむかって歩いていると
    からだの中まで夕日がしみこんできて
    なんとなく こそばっこい
    どこまでも歩いていきたいようだ
    遠い夕日の中に うちがあるようだ
    たのしいたのしいうちへ かえっていくようだ
    あの夕日の中へかえっていくようだ
    いっちんち よくはたらいたなあ

 この詩の作者、大関松三郎は、1926年新潟県生まれ。小学校時代、生活綴方運動に取り組んでいた教師寒川道夫の指導で、多くの生活詩を残しますが、海軍通信隊員としてマニラに向かう途中乗っていた船が魚雷攻撃を受け、1944年(昭和19年)12月19日、一八歳で亡くなります。
没後の1951(昭和26)年、戦時中、反戦教育者として治安維持法により弾圧を受けていた寒川道夫は、没収されていた松三郎の詩を集めて、詩集「山芋」として出版しました。
次の「虫けら」という詩が、彼の代表作としてよく知られています。

虫けら  大関松三郎

一くわ
どしんとおろして ひっくりかえした土の中から
もぞもぞと いろんな虫けらがでてくる
土の中にかくれて
あんきにくらしていた虫けらが
おれの一くわで たちまちおおさわぎだ
おまえは くそ虫といわれ
おまえは みみずといわれ
おまえは へっこき虫といわれ
おまえは げじげじといわれ
おまえは ありごといわれ
おまえらは 虫けらといわれ
おれは 人間といわれ
おれは 百姓といわれ
おれは くわをもって 土をたがやさねばならん
おれは おまえたちのうちをこわさねばならん
おれは おまえたちの大将でもないし、敵でもないが
おれは おまえたちを けちらかしたり
ころしたりする
おれは こまった
おれは くわをたてて考える

だが虫けらよ
やっぱりおれは土をたがやかさんばならんでや
おまえらをけちらかしていかんばならんでやなあ

虫けらや 虫けらや


もうひとつ、「みみず」という詩も紹介しておきます。

みみず  大関松三郎

何だ こいつめ
あたまもしっぽもないような
目だまも手足もないような
いじめられれば ぴちこちはねるだけで
ちっとも おっかなくないやつ
いっちんちじゅう 土の底にもぐっていて
土をほじっくりかえし
くさったものばかりたべて
それっきりで いきているやつ
百年たっても二百年たっても
おんなじ はだかんぼうのやつ
それより どうにもなれんやつ
ばかで かわいそうなやつ
おまえも百姓とおんなじだ
おれたちのなかまだ

 

わたしは、夜間定時制高校に勤務している頃、生徒たちに映画「学校」を観せたことがありました。それ以前、昼間の学校でも好評で、生徒たちはあんな学校がうらやましいともらしていました。夜間定時制の生徒たちは、自分に引き寄せて観たようで、こんな感想を寄せてくれました。

幸福ってなんだろう?
 人と人とが裸でつきあっていくことに、見栄も何もないもんだと思った。私もいろんな人達と、いろんな形で今までに出会えてきたし、これからもいろんな人達と出会えてゆくんだと思うけど、その時その時の素直な気持ちを大切に、そして人に無条件にやさしくできたらなぁと思う。 
 この映画は初めて観たのだけど、うん、本当によかった。でも、前の私はこーゆう映画を観ると必ずボロボロ泣いていたんだけれど、何でかな、涙が出てきませんでした。本当になんでかなぁー?
 
あと、個人的に、萩原聖人さんの演技って、すごく好き。大好きですねー。それと、幸福って何だろうって、私もよく考えたりすることがあるのだけど、やっぱり今、自分が生きているということにほこりがもてて、自信がもてて、自分の中で何か満たされる気持ちがあることなんだろうなあー、と私は思う。 
 これからもがんばれるのは、きっと周りに大切な人達が増えていっているからなのだろうって思います。


              夜の学校 ---最初はいやだったが
 
私は最初この学校にはいるのがすごくいやでした。夜、学校から帰るのがいやだったからです。でもビデオを見て、夜学校から帰るのがこわくても、学校での生活が楽しければいいなと思いました。先生と生徒と言うよりも、みんなで輪になっているという感じがしました。みんなと仲よくなって、みんなと一緒に卒業したいです。先生が生徒のことをいっしょうけんめい考えていることがわかりました。
 中学の時より楽しい生活ができているのでよかったです。
 
あのビデオでは、不良になっている人でも、必死に立ち直らせて、いろんな人がいる中で、一人一人をいっしょうけんめい考えていたからすごいなと思いました。定時制という学校は、恥ずかしい学校だと思っていました。でも、全日制と全然違わないことを、ビデオで見て知りました。
 私もこれから、頑張りたいです。


       この学校に似ている           
今日「学校」という映画を見て一番に思ったことは、この学校にとても似ているというか、近いものを感じました。ひとつ気になっていたのは給食です。なぜか、こことは違ってパンではなく普通の食事だったような気がします。この映画を観て改めてこの学校のすばらしさを教えてもらった気がします。


 
       すごいな、と思った
「学校」という映画を見たのは、2度目だったんですが、前見たときはちゃんと見なかったので、あまり内容をおぼえていませんでした。
 
50歳を過ぎてから中学に行く人とか、いろいろいるんだなと思いました。夜間の学校に通っている人は昼間は働いて、夜は学校で勉強するのですごいと思いました。私は別に、午前中や昼間は何もすることがないので、学校に来るのはそんなに大変ではないですが、映画のなかの人は、働いていたり、家の事情とかあって、大変だと思いました。
 イノさんは50歳を過ぎてから、初めてはがきを出したりとか、ひらがなを学んだりしているのは偉いと思います。戦争
や、いろんなことで勉強できなかった人とかが、年を取ってから中学に行き、勉強するのがすごいことだと思います。夜間中学があるということは、あまり知らなかったのですが、結構いいところなのかな、と思いました。



 こんなクラスになれたら---
 今でも夜間中学が本当にあるとは思わんかった。おわりごろにイノさんが死んで、クラスのみんなで幸せだったかどーか考えてた。うちは幸せだったと思う。で、クラスで”幸福”について考えよーたけど、うちはわからん。みんながひとつになったクラスは、いいなーと思った。うちの学校も、こーゆークラスばっかりになれたら、すばらしい学
校ができると思った。 
 中学校なのに、給食が”ごうか”だと思った。


   今ここにいられるのが幸福
 この映画は、前に少しだけTVで見たことがある。その時初めて夜間中学の存在を知った。そして思ったことは、すごくあったかとした、家族みたいな感じのクラスだなと思ったのと同時に、私もそこに入ってみたいなという気持ちがあった。
 私達の高校と夜間中学とでは、ただ高校と中学っていう名前が違うだけで、中身は全く変わらないなと思った。今、ここにいれることが”幸福”だと思う。 
 
中学の時に学校へ行かなかったのは、いじめなんてなかったし、クラスの人達みんないい人だった。でも、たぶん、今わかることは、その時自分は何も考えてな
かったからだと思う。したいこととかも別になかったし、義務教育だから行かなければならないっていうことだけしかなかった。
 私は、~しないといけないというのが大嫌いだ。しばられているというか、強制的みたいなかんじで、逆にやりたくなくなる。それが登校しなくなった理由の一つだと思う。なんにもおもしろいとか思わなかったし、ただ時が過ぎていくだけと言った感じで、今までを無駄に過ごしてきた。
 今の学校は、本当に楽しい。とてもじゅうじつしているとはっきり言える。自分にあったトコに入れて、本当によかったと思う。今まで、今の風景を想像していた。それが実現してとてもうれしい。
 今はやりたいこと、やっていっていること、いろいろなことが浮かんでくる。私は精思高校が「学校」のような家庭的なのんびりとした学校に方向づいていってほしいなと思った。クロちゃん先生をこの学校にたくさん増やしていきたい。
 この学校の生徒がみんなやさしい&仲がいいのは、どこか似ているとこがあるからだ。パンピーな人には味わったことのないつらさや痛さを。しかしパンピーな人には味わえないこともあるのが、私にはうれしい。


    思っていたより大切な場所
 今日のビデオを見て、いろんなことに対して考えが変わったと思う。
 私が思っていたより、学校っていうのは大切な所だった。別に学校行って、卒業すればいいと考えを持っていたわけでもない。でも大切さが違っていたように、今は思う。
 勉強ももちろんだけれど、それより、自分とがった人とつきあって、色んな面で力がついて、大きくなっていくのに必要なところだ、学校は。
 
昼間の学校では、自分と同じ年や同じような生活を送っている人とばかりで、映画でも言っていた「人生」の勉強はあまりできないと思う。映画を見てもそうだ
けど、自分は夜間高校へ来て、普通の学校へ行ってる人より、いろんな「経験」をするチャンスが多い。 自分と違った生活の人と一緒に、毎日頑張っていて、
学校っていうところの意味が少しずつ変わってくる。最初は「勉強」としか思いつかないのに、そのうち「第2の家」って感じがしてくる。先生達も友達も、みんながみんなのことを思って、一緒に何かの向かって歩いていくのに、頑張ることを教えてくれるところだ、学校は---。
 書きすぎてわけがわからなくなったのかもしれないけれど、今日はそう思った。


       見習って頑張りたい
 映画を見て思ったことは、この学校とちょっと似ているなと思った。この学校にもいろんな人がいるんだろうけど、うちのクラスにはあんなに大変な人はいなくてよかったと思う。あんなにまで勉強したいと思っている人がいっぱいいるんだなあと感心しました。
 夜、学校に来るって、すごく大変なことなんだと思った。学校にはいるというのはとても勇気のいることだと思う。あの映画のなかの人達は、その、みんな大変そうな人ばかりでも、ちゃんと学校で学ぼうと思っていて、少し見習った。 
 入ってきた時と今の気持ちは全然違うけど、今の方が自分のしたいことがやれて、すごくうれしいです。仕事しながら学校に来るのはしんどいけど、卒業するまできちんと頑張りたいです。


     夕陽の当たる教室で、一時間目がはじまり、暗く更けた夜中に下校していく夜間定時制の生活には、夕日も夕焼けも切り離せません。

10年以上前の、定時制勤務当時の写真を見つけました。
窓の外は夕焼け。

DSCF0216.JPG

 

 灯のともる校舎。

dscf0999.jpg
 
夕暮れ時の教室 。
PDRM0059.JPG
 
夕闇迫るグラウンドで。
PDRM0107.JPG


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johncomeback

興味深く拝読させていただきました。
by johncomeback (2014-10-18 20:37) 

kazg

johncomeback様
いやはや、恐縮です。
by kazg (2014-10-18 22:14) 

ふゆん

いろんなこと覚えられないし
すぐ忘れるから
えんぴつでメモをとるんだけど
メモしたことも忘れて
そんなことが10代のころからあるから
まあいっかって思ってます

ブログしてるといついつどこ行った
の記録が残ってうれしいです(・∀・`)
by ふゆん (2014-10-20 03:51) 

kazg

ふゆん様
ありがとうございます。
私の場合、備忘録的効果は、たしかに、ブログの最大の存在意義ですね。
by kazg (2014-10-20 07:27) 

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