SSブログ
<

せるふ・こむぷれいせんす [木下透の作品]

 木下透は私の高校時代の筆名です。
このコーナーは、今から40年以上も昔の、彼の高校時代の作品を、思い出すままに紹介することを趣旨としています。
拙劣さ、未熟さは、年齢の故と、寛容に受け止めていただければ幸いです。


人生を、探し物だけで浪費しているのではないかと、思うことがよくありました。

最近では、探しても探しても見つからない徒労感から、物探し自体を敬遠することが多くなっています。どうせ、いつか思いもかけないタイミングで、「こんなところにあったか」と思えるような見つかりかたをするのが常ですし。
そんな私が、このたびはほんの2分で探し物を見つけ、無上の爽快感を得ることができました。
すっかり黄ばんで擦り切れた、原稿用紙の束です。
「喜劇 せるふ・こむぷれいせんす」と表題があります。
私が高校時代に書いた、未完の「大作」なのです。
「文芸部」が年に一回発行するタイプ印刷の冊子に、他のいくつかの作品とともに掲載してもらうつもりで書いたのですが、印刷会社に依頼するには、字は乱雑だし加除・推敲の跡も読みにくく、字数をカウントするのも困難とする印刷所側の要請で、同期生や下級生の部員のみなさんが手分けして清書してくれました。今思えば、心苦しい限りです。
ところが、未完ながら、400字詰め原稿用紙130枚あまりの「作品」になりましたので、結局スペース(予算)の都合で、掲載されないことになりました。読み返せば、赤面するほかない未熟で稚拙な作文で、活字になって世に残るというような恥をさらさずにすんだことは幸いでした。
いずれにしても、そのような次第で、今も私の手元には、「清書版」と、「自筆オリジナル版」の二つが、部分的な散逸は伴いながらも、あらかた保存されています。
それにしても、最近どこかにしまいこんだものや、ちょっと昔のものは、それを大切に思っているかどうかに関わりなく、すぐにどこに置いたかわからなくなってしまいます。パソコンのハードディスクの中も、まったく同様なのですが、この場合は「全文検索」という魔法の杖で、探しものが見つかることもあってたすか
ります。しかし、現実世界では、なかなかそうはいきません。
その意味では、今朝の発見は希有な僥倖ともいえますし、これまで何度も引っ張りだしては収納し直してきた頻度の高さを物語るものでもあります。
私にとってこの作品は、いかに不出来ではあっても、小学生が校庭に埋めるタイムカプセルさながらに、いとおしくなつかしい代物です。
以下、冒頭の2枚ほどを掲載させていただきます。
ところで、先日、昨年12月のこの記事で、「牧村透」という筆名を使っていた旨書きましたが、それは錯覚で、「牧村」は、今日紹介する作品に「木下透」とともに登場する登場人物名でした。訂正してお詫び申し上げます。


せるふ・こんぷれいせんす
木下 透

神の死以来、外界における存在のすべては、ひとえに個我の認識に負うてきた。
この世のいかな実在も、「現象」として以上には、とらえられることはなかった。
いかな観念論者(第一義の)も、パンなくしては生きられなかったが、一方、どのような実在論者も、主体と客体、個我と外界の、本質的差異を否定できない点においては、懐疑論者となんら変わるところはなかった。
個としての人は、いつも孤独な猜疑者であったろう。
しかしながら、すべての人が真の孤独者になりえたわけではなかった。
それゆえ、認識された唯一の実在である我に似た、を、我と同じものとして認めようとして、つまり、我は彼や彼女らを、我を識るように理解しうると、あるいはしえたと思いこもうとして、生きるのである。
それは喜劇(コメ)であるのか悲劇(トラ)であるのか、私にはわからない。
ただ、生来、一人で生きる能力に欠ける一人の男が、認識の純粋性を疑い始めた時、それは気の毒でもあり、こっけいでさえありうるとは言えないだろうか。
彼は、あらゆる現象を、一途に、そのまま真理だと思いこまねばならないのであろうから。
彼は、彼の認識能力を信じていないにもかかわらず、対象を識るには、その主観によるしかないのだろうから。
(彼は、一人で生きられない以上、対象を自分の価値観のもとに識らなければならないのである。しかし彼は、現象と実在は一致しないことを知っているのである。)
そんな男が、ここにもいた。


随分気取った、独りよがりな文章でしょ?

「せるふ・こんぷれいせんす」というのは、独りよがり、独善を、和英辞典で調べて見つけた言葉です。

本当に正しく用いられる英語かどうかは心許ないですが、漱石の「番茶=サベジティー」(『吾輩は猫である』)よりはもっともらしく感じますね。

次回に続きます。

 


nice!(40)  コメント(0)  トラックバック(1) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 40

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

フォト蔵にアップしている私の写真はこちらです。

写真販売サイトにも画像を掲載しています。
写真素材 PIXTA


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。