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「喜劇 せるふ・こむぷれいせんす」 最終回 「えぴろーぐ」 [木下透の作品]

木下透は私の高校時代の筆名です。
このコーナーは、今から40年以上も昔の、彼の高校時代の作品を、思い出すままに紹介することを趣旨としています。
拙劣さ、未熟さは、年齢の故と、寛容に受け止めていただければ幸いです。


 「喜劇 せるふ・こむぷれいせんす」のつづきで、かつ最終回です(連載3回目)。

 高校時代に書いた400字詰め原稿用紙130枚あまりの「作品」の、ほんの一部分を紹介します。

今回は、「えぴろーぐ」(終章)と名づけた一節です。

前回載せた「プロローグ」のあとには、「第一章」~「第六章」の、未完の物語が展開するのですが、それは自ら読み返すだに恥ずかしい、独りよがりの代物で、とても世間様にお見せするわけには参りません。(とにかく、「せるふ・こむぷれいせんす」とは、和英辞典で調べた「独善」の英訳ですゆえ。)

では、ブログ掲載の前後三回分は、世間様にお見せできるのか?と追及しないでくださいませ(汗)。

改めて読み返してみますと、やっぱり、四〇数年経っても、精神レベルはちっとも変わってないなと感じます。いや、むしろ、一七歳の自分にエールを送られているような気さえするのです。
いやいや、またまた独りよがりでした。

 

 

エピローグ
時折勢いを得てはなおも降りそそぐ小雨のしぶきをのせて運んでくる風が、ひやりと透の頬をなで、今まで懐旧にふけっていた透をふと正気づかせた。
《僕はなんて弱々しくなっていることだろう。窓の硝子戸のレールの鉄さびの匂いにさえ、つい涙ぐんでしまうほどに。》
透は、机の上に広げた日記を、所々めくって幾度も読み返しては、そのこっけい極まる己の歴史のそれぞれを、嫌悪と羞恥を持って想い起こし、赤面し、こめかみあたりをこぶしでがんがん殴りつけながら思うのであった。
《ぼくという人間のやってきたことと言ったら、まるで猿芝居だ。やたら深刻ぶってふさぎ込んだり、自分を戯作の主人公に仕立てて気取ったり、ちょっとしたキズを大げさに痛がって見せたり(ひとに構って欲しくて)―――笑止、笑止。》
ぼくの生きているってこと自体がすなわち自瀆なんだ。思いっきりあざ笑ってやるがいいさ。生を何とか意味づけようなんて考えは捨てちまったよ。僕は、苦悩する芸術家なんかじゃなくて、その日暮らしの日雇い人夫であることを、誇らなくっちゃならない。昔のことあれこれ想うのは、よしにしよう。今生きてるってことの満足を知らないってのは、哀しいことさ。
今、在るということが、真の幸福で、真の美で、真の真理なんだ。
僕はこうして十何年か生きたおかげで、自分が何一つ知らないってことを知ることができたし、だから、生きたってことはとにかくすばらしいことだと想えるのさ。
人にわかってもらえないと嘆く自分が、どれほど人をわかっていたか・人が真にわかり合えるということは、とてもあり得ない。でも、――。
今の僕にもおそらく言い切ることができるだろう。人の本質は美だって。そして、いきるってことは、全だか悪だかわからないが、いずれにせよ、生は美で、真だって。
美しいのは今を生きる人だ。そして、今を生きる人は美しい。
新押しは、真意生きる人によってのみ歌われる。(生きた時のことを想う者によってではなく)
ぼくはおそらく、このあともいつまでも、偽りの生を追うだろう。見せかけの幸福(さいわい)と平和を追い、その上に横たわろうとするだろう。ぼくはおそらく。
自ら苦しんで真の生を探ろうとはしないだろう。ぼくはおそらく。
迷った挙げ句、自分の思いを曲げても、浪人はしないだろう。ぼくはおそらく。
迷った挙げ句、何かと理屈をつけては、煩わしさを避けようとするだろう。ぼくはおそらく。
やはり、非行動の逡巡者の立場を続けるだろう。しかし。
しかし、いつかはきっと立ち上がる。どん底の、どうにも身動きできない状態に追い込まれた時。その時。
きっと立ち上がる。そして、やっと。
真の自分として真に生きる。それで決して遅くはない。
回り道恐れること勿れ。回り道しても、いつかは自分になりきって、真に生きる者として生きる。今のぼくが、自分になりきることのできなかったわけは、僕が、自分ってものを持ってはいなかったということだ。だからぼくは、ゆっくりゆっくり、自分ってものを創り上げ、はっきり見つめなきゃならない。
ああ。さまざまの失態よ、苦笑よ、哀しみよ。すべてぼくの血となり、魂となり、僕の胸を打ち鳴らせ。
いつか立ち上がる日のために。自分よ。せいぜい失態と逡巡を繰り返すがよい。
牧村よ.ヘレナよ。ぼくは今、君らの残像(かげ)に別れよう。
ぼくは、偶像としての君らを今捨て去り、真に生きるものとしての君ら、真に美しいものとしての君らを愛し、尊敬しよう。君らがいつまでも、僕自身の構成要素となり、ぼくの最も高尚な部分を支えるよりどころとなるために――》

「そうだ。」
透は、引き出しの中の菓子袋をポケットに押し込んで、階段を下りていった。
すっかり暮れたおもては、いつか雨がやみ、透の胸にはほの甘い霧がけぶっていた。
「吉沢の下宿へ行ってみよう。まだ起きているだろう。」
透は、演技ではない笑みが、自然とその面(おもて)に広がるのを感じ、フフっと肩すくめた。
【完】
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楽しく生きよう

先ほど戻ってまいりました。
問題ありませんでした。
今後ともよろしくお願いいたします。
by 楽しく生きよう (2015-02-07 18:15) 

kazg

楽しく生きよう様
何よりでした。こちらこそよろしくお願いいたします。
by kazg (2015-02-07 20:40) 

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