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漁父と蚌と鴫のいびつなトライアングルの巻(シリーズ故事成語その3) [文学雑話]

故事成語シリーズ第三回の今回は、「漁父の利」

これも、古代中国の戦国時代の遊説家たちの活躍ぶりを描いた『戦国策』の一節です。

登場人物は、蘇代(そだい)。諸子百家と呼ばれる思想家のひとりで兄の蘇秦(そしん)と並んで、ともに、合従策(がっしょうさく)を説いた縦横家(じゅうおうか、しょうおうか)として知られています。

縦横家について、ウィキペディアにはこう紹介してあります。

 


 巧みな弁舌と奇抜なアイディアで諸侯を説き伏せ、あわよくば自らが高い地位に昇ろうとする、そのような行為を弁舌によって行う者が縦横家である。合従策を唱えた蘇秦と連衡策を唱えた張儀が有名。蘇秦はその弁舌によって同時に六国の宰相を兼ねたとされている。



「縦横家」という言葉も彼らの策の名前に由来する。詳しくは「合従連衡」を参照。



合従は諸国が連合し秦に対抗する政策のことで、これは、秦以外の国が秦の東に南北に並んでいること(「縦」=「従」)による。

連衡は秦と同盟し生き残りを図る政策のことで、秦とそれ以外の国が手を組んだ場合、それらが東西に並ぶことを「横」=「衡」といったことによる。



ここでも説明にあるとおり、当時、覇を競い合っていた七国(戦国の七雄)のうち、最大最強の国は西側に位置する秦で、斉(せい)、楚(そ)、燕(えん)、韓(かん)、魏(ぎ)、趙(ちょう)の六国は、当方に南北に並んで位置していました。



「漁父の利」の故事が登場するのは次の文章です。

  趙  且  伐  燕。 蘇  代  為  燕  謂  恵  王  曰、「今  者  臣  来  過  易  水。 蚌  方  出  曝。 而  鷸
  啄  其  肉。 蚌  合  而  箝  其  喙。 鷸  曰、『今  日  不  雨、 明  日  不  雨、 即  有  死  蚌。』蚌
  亦  謂  鷸  曰、『今  日  不  出、 明  日  不  出、 即  有  死  鷸。』両  者  不  肯  相  舎。 漁  者
  得  而  併  擒  之。 今  趙  且  伐  燕。 燕・ 趙  久  相  攻、 以  敝  大  衆。 臣  恐  強  秦  之  為
  漁  父  也。 願  王  熟 - 計  之  也。」恵  王  曰、「善。」乃  止。



冒頭部分は、こんな場面です。

【本文】 

趙  且  伐  燕。 蘇  代  為  燕  謂  恵  王  曰

【書き下し文】

趙且(まさ)に燕を伐たんとす。蘇代燕の為に恵王に謂ひて曰はく、

【解釈】

趙国はいまにも燕国を攻撃しようとしていました。蘇代は、燕国のために趙国の恵王のもとを訪ねてこう言いました。



これに続くのが、有名な件のたとえ話です。









 【kazg語訳】

今しがた、このワタクシメ蘇代は、貴国に参ります道すがら、大きな川を通り過ぎましたわい。あれが易水(えきすい)でしたでしょうかナ、ふと川原の方を見下ろしますと、大きなバカ貝が水から出てきて、気持ちよさげに貝殻を開いて日光浴しておりました。

すると、突如、シギがやってきて、その貝の肉を、クチバシでついばんだのですわい。バカ貝は、おおあわてでとっさに貝殻を閉じ、シギのクチバシを固くはさみこんでしまいました。

どうなるか成り行きを見守っておりますと、クチバシを挟まれたシギは、話しづらそうではありましたが、そのままもごもごとドスの利いた声でこういいましたな。

「今日は良いお天気だ。このまま雨が降らず、明日も雨が降らなかったら、カラカラに乾いてミイラ化したバカ貝の死骸が出現するだろうぜ。強情張るのはいい加減にして、貝殻の口を緩めた方が身のためだぞ。」

売り言葉に買い言葉で、バカ貝もまた、こう言い返しておりましたなあ。

「お前こそ、そうやって強情を張っているがいいさ。今日クチバシが閉ざされたまま外に出ず、あすも出なかったならば、餓死したシギのできあがりときたもんだ。」

バカ貝とシギは、、そうやって両者譲らず、意地を張り合っておりましたな。するとちょうどそこへ通りかかった漁師のオッサンが、大きなバカ貝と旨そうなシギの両方を、しめしめ大漁だとばかりに、とっつかまえて帰りました。 


そして蘇代は、「今趙且伐燕。燕 ・ 趙久相攻、以敝大衆。臣恐強秦之為漁父也。願王熟 計之也。」と説得します。つまり「いま、王様のお国、趙は、いまにも燕国を攻撃しようとしておられます。燕と趙が、ながいことお互いに攻め合っておりますと、人々をへとへとに疲れさせてしまいましょうぞ。ワタクシメは、強大な秦の国が漁師のオッサンのように、労せずして利益を独り占めしてしまうことをおそれるものでございます。願わくば王様、そこんところをよおっく熟考していただきたいものですな」テナ具合です。

これを受けて、恵王は「よっしゃ」と言って、燕への攻撃計画を断念したのでした。オシマイ。



この喩え話に登場する「蚌(ぼう)」は、淡水に棲む二枚貝で、「カラスガイ」だとする注釈書もあります。カラスガイは、子ども時代から川や池でよく見かけた、なじみ深い貝です。シジミなどに比べれば確かに大振りだとは言えますが、漁師が獲物として喜んで持ち帰る程の大きさかどうかは、疑問が残ります。

今回の訳で用いた「バカ貝」だとする説もあります。「バカ貝」または「ドブ貝」という気の毒な名前の貝を、私は長いこと知らなかったのですが、このナードサークの地に暮らすようになってから、農業用水などでよく目にするようになりました。あいにく、実際に生きている姿を見ることはまれですが、大きな貝殻は、ごくありふれた存在です。

実物教材用にちょっと特大サイズのものを拾って、標本箱仕立てで保存していたこともあったのですが、退職を期にどこかへ捨ててしまったようで、イマは見あたりません。

 今日ぶらりと散歩して、探してみましたが、なかなか大きなサイズのものは見つかりませんでした。しかし、カラスガイよりは、大きな獲物と言えるでしょう。味は?分かりません。

















百円玉の大きさと見比べて戴きましょう。



ところで、鷸(いつ)は、シギのことだそうですが、「鴫」とも書きます。「鴫」の字は田んぼにいる鳥だからとして作られた国字(和製漢字)です。

海辺、磯辺のシギは「鷸」の字を当て、農村の田んぼや、里山などの沢辺付近にあらわれるシギは「鴫」と書く、などの説もあるようですが、厳密な区別はない模様です。

さしずめ、こんなシギは、「鷸」でしょうか?

高梁川のチュウシャクシギ

高梁川のチュウシャクシギ posted by (C)kazg




古来「三夕(さんせき)の歌」の一つとして名高い、西行法師のこの歌は、「鴫」の文字が用いられるのが一般です。



心なき 身にもあはれは しられけり 鴫たつ沢の 秋の夕暮 (西行 山家集 470)



西行があはれを覚えた鴫の種類は?という疑問も興味深いですが、これも諸説ありそうです。

「タシギ」は田の鴫ですから、大いに田に縁ありですね。蓮田のタシギをご覧下さい。



2月の蓮田のタシギ

2月の蓮田のタシギ posted by (C)kazg



2月の蓮田のタシギ


2月の蓮田のタシギ posted by (C)kazg



2月の蓮田のタシギ


2月の蓮田のタシギ posted by (C)kazg



2月の蓮田のタシギ


2月の蓮田のタシギ posted by (C)kazg



2月の蓮田のタシギ


2月の蓮田のタシギ posted by (C)kazg


これは「イソシギ」でしょうか「磯」の名がつきますが、これも蓮田にいました。



蓮田のイソシギ

蓮田のイソシギ posted by (C)kazg



蓮田のイソシギ


蓮田のイソシギ posted by (C)kazg



蓮田のイソシギ


蓮田のイソシギ posted by (C)kazg



これは鴨(カモ)です。字がよく似ています。







いつもの散歩道のコガモです。



これはカメ。



お粗末でした。

きょうの、ちょっと暖かい春めいた陽気に誘われて、日光浴ですかね。ご多分に漏れず、外来のミシシッピアカミミガメです。

きょうはこれにて。
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コメント 4

joyclimb

故事成語はとても参考になりますが、実践するのは難しいです^^;
by joyclimb (2016-02-13 23:39) 

kazg

joyclimb様
本当にそうですね。
でも、真反対の故事成語や格言もけっこうあったりして、ご都合で使い分けることもできたりします(笑)
by kazg (2016-02-14 06:56) 

BrerRabbit

>ご都合で使い分ける
あぁなるほど・・・

「漁父の利」元はこっちだったのですかぁ~
いつも勉強させてもらってます。身に付かないのが玉にキズですが・・
実に世相を反映した記事で漁師のオッサンはアイツでしょうか?
by BrerRabbit (2016-02-14 12:02) 

kazg

BrerRabbit様
はい、紛争という紛争を、いつも自分の利益のために活用する、、、たしかにアイツの得意技ですね。
by kazg (2016-02-14 15:11) 

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