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母さん今帰ったよ秋の暮れ  透 [木下透の作品]

この項は、ほとんど仕上げて、保存しないまま居眠りをしていたら、タイムアップで保存不可能ということで、消滅してしてしまった。仕方ないので、取り急ぎもう一度書き直す。
 
母さん今帰ったよ秋の暮   透
微妙な字足らずだ。上五「おかあさん」なら。字数が揃うが、句としてはいただけまい。「母さん今帰ったよ」というフレーズがまず浮かんで、できた句だ。何気なく口からこぼれた日常の言葉のように、気負わず巧まず自然に詠んだような味が、気に入っている。
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秋の日は釣瓶落とし、部活を終えて帰宅していると、とっぷり日が暮れて、すっかり暗くなる。冷え冷えと寂しい暗がりの道を、自転車をこぎ続け、自宅の明かりを見て、ほっと気持ちがくつろぐ瞬間がある。当時午後七時から放映されていた「巨人の星」も、見逃すことがしばしばだった。 夕食の後は、現在とは違って少ないとはいえ、宿題もあり、その日の自分に科した学習のノルマもある。そんな日常の一こまだ。
文芸部の冊子に、これを掲載したものがクラスに配布してあったのを、何かの折に目にした教師が、「最近の俳句ってこんなのをつくるのか?」と驚き半分、あざけり半分で感想を漏らした。内心、赤面しつつ、自分なりの抗弁もないわけではなかった。
夕焼けはほんとに真っ赤に燃えるんだな  透
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この句も、同じ冊子に載せていた。さっきの批評は、これにたいしてのものだったかもしれない。
 
文芸部の顧問で、国語を教わったU先生は、誉めて取り上げてくださったが、 実は誉められるほど純真な、無心な作品ではなかった。自然なつぶやきを意識し、無邪気さを装いすぎて、少々鼻につく臭さがあるかも知れない。

だが、短歌会の俵万智が世に出るよりずっと昔だ。「斬新」な表現への希求は、寛容な心で是としていただけるとうれしい。


なりゆきで、俵万智ホームページ(http://www.gtpweb.net/twr/sakuhin.htm)から、自薦の百首の最初の方を少し引用させていただく 。

砂浜のランチついに手つかずの卵サンドが気になっている(『サラダ記念日』)  

寄せ返す波のしぐさの優しさにいつ言われてもいいさようなら(『サラダ記念日』)

思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ(『サラダ記念日』)  

大きければいよいよ豊かなる気分東急ハンズの買物袋(『サラダ記念日』)

生ビール買い求めいる君の手をふと見るそしてつくづくと見る(『サラダ記念日』)

「また電話しろよ」「待ってろ」いつもいつも命令形で愛を言う君(『サラダ記念日』)

サラダ記念日 (河出文庫―BUNGEI Collection)

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  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
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サラダ記念日―俵万智歌集

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  • 作者: 俵 万智
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
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  • メディア: 単行本

 

 

 

あなたと読む恋の歌百首 (文春文庫)あなたと読む恋の歌百首 (文春文庫)

  • 作者: 俵 万智
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 文庫

 


若い、気鋭の歌人。という印象があるが、わたしよりわずか(笑)十歳年下であるに過ぎない(笑)。

しかれども、「最近の短歌ってこんなのをつくるのか?」と、どこかで聞いた感想を、「サラダ記念日」が話題になった頃の私は、つぶやいていた。

しかるに、今、若者たちにとって、万智ちゃんも、若い、気鋭の歌人じゃないし、心を打つ斬新な表現でもなく、教科書に載っている既成の(古くさい)言語表現の一つに過ぎないのだろう。

 

 


 

ちなみに、最近続けて話題にした尾崎放哉の句を、

「文芸ジャンキー・パラダイス」http://kajipon.com

中のページ

「咳をしても一人」漂泊の俳人
【 あの人の人生を知ろう~尾崎 放哉 】 

osai Ozaki 1885.1.20-1926.4.7 (享年41才)

http://kajipon.sakura.ne.jp/kt/haka-topic42.htm

から引用させていただいて、いくつか挙げておく。


ふとん積みあげて朝を掃き出す
青草限りなくのびたり夏の雲あぱれり
堤(どて)の上ふと顔出せし犬ありけり
夫婦でくしゃみして笑った
今日一日の終りの鐘をききつつあるく

 

つくづく淋しい我が影よ動かして見る
ホツリホツリ闇に浸りて帰り来る人々
ねそべつて書いて居る手紙を鶏に覗かれる参考

月夜戻りて長い手紙を書き出す

障子しめきつて淋しさをみたす
こんなよい月を一人で見て寝る
船乗りと山の温泉に来て雨をきいてる
浪打ちかへす砂浜に一人を投げ出す
にくい顔思ひ出し石ころをける
雀がさわぐお堂で朝の粥腹(かゆばら)をへらして居る
犬よちぎれるほど尾をふつてくれる

雨の幾日がつづき雀と見ている
児に草履をはかせ秋空に放つ
かぎ穴暮れて居るがちがちあはす
あるものみな着てしまひ風邪ひいている
がたぴし戸をあけておそい星空に出る
鳩に豆やる児が鳩にうづめらる
人を待つ小さな座敷で海が見える
何かつかまへた顔で児が藪から出て来た
雀のあたたかさを握るはなしてやる
うつろの心に眼が二つあいている
ころりと横になる今日が終つて居る
一本のからかさを貸してしまつた
今日来たばかりの土地の犬となじみになっている
和尚茶畑に居て返事するなり
麦わら帽のかげの下一日草ひく
遠くへ返事して朝の味噌をすって居る
寺に来て居て青葉の大降りとなる
朝早い道のいぬころ
昼寝の足のうらが見えている訪ふ
宵のくちなしの花を嗅いで君に見せる
咳をしても一人
いつしかついて来た犬と浜辺に居る
とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた
ビクともしない大松一本と残暑にはいる
障子あけて置く海も暮れ切る
足のうら洗へば白くなる
自分をなくしてしまつて探して居る
竹籔に夕陽吹きつけて居る
鳳仙花(ほうせんか)の実をはねさせて見ても淋しい
入れものが無い両手で受ける
雀が背のびして覗く俺だよ
月夜の葦が折れとる
墓のうらに廻る
あすは元日が来る仏とわたくし
夕空見てから夜食の箸とる
枯枝ほきほき折るによし
霜とけ鳥光る
お菓子のあき箱でおさい銭がたまつた
あついめしがたけた野茶屋
肉がやせてくる太い骨である
一つの湯呑を置いてむせている
白々あけて来る生きていた
これでもう外に動かないでも死なれ
 
【参考】
 

やはり、斬新だ。
というより、「表現」という意識がそぎ落とされて、「心のありのままの表出」という 感じ。
でも、真似はできないか。
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