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すもももももも、の巻(その3) [文学雑話]

「桃李」と言えば、以前この記事(桃の節句の蘊蓄)で、「奥の細道」(芭蕉)の冒頭文が、李白(あ、またスモモだ)の「春夜宴桃李園序」を下敷きにしていることを話題にしました。


春夜宴桃李園序 李白

夫天地者萬物之逆旅
光陰者百代之過客
而浮生若夢
爲歡幾何
古人秉燭夜遊
良有以也
況陽春召我以煙景
大塊假我以文章
會桃李之芳園
序天倫之樂事
群季俊秀
皆爲惠連
吾人詠歌
獨慚康樂
幽賞未已
高談轉清
開瓊筵以坐華
飛羽觴而醉月
不有佳作
何伸雅懷
如詩不成
罰依金谷酒數

【書下し】
春夜桃李園に宴するの序 李白
夫(そ)れ天地は萬物(ばんぶつ)の逆旅(げきりょ)にして
光陰(こういん)は百代(はくたい)の過客(かかく)なり
而して浮生は夢のごとし
歡を爲すこと幾何(いくばく)ぞ
古人燭を秉りて夜遊ぶ
良(まこと)に以(ゆえ)有るなり
況んや陽春の我を召すに煙景を以てし
大塊の我に假すに文章を以てするをや
桃李の芳園(ほうえん)に會(かい)し
天倫(てんりん)の樂事(がくじ)を序す
群季(ぐんき)の俊秀(しゅんしゅう)は
皆 惠連(けいれん)たり
吾人(ごじん)の詠歌(えいか)は
獨り康樂(こうらく)に慚(は)づ
幽賞(ゆうしょう)未だ已(や)まざるに
高談(こうだん)轉(うた)た清し
瓊筵(けいえん)を開いて以て華に坐し
羽觴(うしょう)を飛ばして月に醉ふ
佳作有らずんば
何ぞ雅懷(がかい)を伸べん
如(も)し詩成らずんば
罰は金谷(きんこく)の酒數(しゅすう)に依らん
【解釈】
春の夜桃やすもものかぐわしく花咲く庭園で酒宴を催す詩 李白
そもそも天地はすべてのものを迎え入れる旅の宿のようなものであり、
時の流れは、永遠の旅人のようなものである。
しかし人生ははかなく、夢のように過ぎ去っていく。
楽しいこともどれほど長続きしようか?いや、ほんの一瞬の事だ。
昔の人が燭に灯りをともして夜中まで遊んだのは、
実に理由があることなのだ。
ましてこのうららかな春の日、
霞に煙る景色が私を招き、
造物主が私に文章を書く才能を授けてくれたからには、なおのことだ。
桃や李〈スモモ)のかぐわしい庭園に集まって、
兄弟そろって楽しい宴を開こう。
桃李の花の咲きにおう庭園に集まって、兄弟の楽しみごとを次々と行う。
年少の才能にあふれた者たちは、皆(南朝宋の詩人の)恵連のようである。
私自身の詠む詩は、ただ一人(恵連の従兄弟で南朝宋の詩人の)康楽に恥じるばかり(にへたくそ)である。
花景色を静かに褒め称える声はまだなおやまず、俗世を離れた高尚な話題はさらに清らかにつづく。
玉のむしろを開いて花の下に座り、鳥の羽根の飾りの杯を酌み交わして、月に酔う。
優れた作品をつくるとなしには、どうしてこの風雅な気持ちを言い表せようか。
もしも詩ができなければ、その罰は昔晋の石崇が金谷園で催した宴会の故事にちなんで、杯三杯の酒を飲むことにしよう。

酒を愛し、時を惜しんで風雅を享楽する李白とは、少々趣は異なるようにも思えますが、芭蕉もまた、この世は仮の宿り、人は旅人だと断じます。


   

『令和』の出典とされる万葉集「梅花の歌 三十二首、并せて序」の舞台となった太宰府・大伴旅人邸での「梅花の宴」も、同様の趣向といえるでしょう。旅人を初め万葉人が、いかに古代中国文化へのふかい憧憬を抱いていたかがわかります。
また、時代下って元禄の芭蕉が、古代中国の詩人たち(の風雅)を深く敬慕したことを確認するだけでも、日本文化の根底に、色濃く中国文化の影響があることは自明です。いかに「反中」に徹しようとしても、その事実を無視することはでき内でしょう。


ところで、バラ科モモ属に分類される桃よりも、バラ科サクラ属の梅や 杏(アンズ)の方がスモモと近縁なのだそうです。


またまた過去記事の引用です。


お名前は? お玉?お筆?八重?杏?


アンズについて、安直(アンチョク)ながら、wikipediaをコピーさせていただきます。

アーモンドやウメ、スモモの近縁種であり、容易に交雑する。ただし、ウメの果実は完熟しても果肉に甘みを生じず、種と果肉が離れないのに対し、アンズは熟すと甘みが生じ、種と果肉が離れる(離核性)。またアーモンドの果肉は、薄いため食用にしない。 耐寒性があり比較的涼しい地域で栽培されている。春(3月下旬から4月頃)に、桜よりもやや早く淡紅の花を咲かせ、初夏にウメによく似た実を付ける。美しいため花見の対象となることもある。自家受粉では品質の良い結実をしないために、他品種の混植が必要であり、時には人工授粉も行われる事がある。収穫期は 6月下旬から7月中旬で、一つの品種は10日程度で収穫が終了する。果実は生食のほか、ジャムや乾果物などにして利用される。種子は青酸配糖体や脂肪油、ステロイドなどを含んでおり、杏仁(きょうにん)と呼ばれる咳止めや、風邪の予防の生薬(日本薬局方に収録)として用いられている他、杏仁豆腐(今では「あんにん」と読まれる事が多くなった)の独特の味を出すために使用される。未成熟な種子や果実には、青酸配糖体の一種アミグダリンが含まれる。
日本には古代に中国から伝えられ、万葉集には「杏人」の原文表記があり、またカラモモともカラヒトともモモサネとも読まれていて定かではない。仮名書きのカラモモは古今集に見える。

以前(かれこれ20年ほどになりますか)、アンズの苗を庭に植えていたことがありました。

何回か春には花を咲かせ、黄色に輝く可憐な果実をつけるまでに育ちました。わずかな実りでしたが、それだけに美味でした。

でも造成地の庭ですので、土が浅くて硬く、十分根を張りきれなかったのでしょうか、台風でなぎ倒されて枯れてしまったのでしたっけ。記憶もあやふやなほど、昔のことになりました。

余り、スーパーなどに大量には出回らないし、買ってまで食べようとも思わないですが、姿、味ともに、好ましい果実の一つです。

室生犀星に「杏っ子」 という作品がありました。「あんずっこ」と読みます。
犀星の自伝的小説で、小説家平山平四郎は作者自身、娘の杏子(きょうこ)実の娘の朝子さんがモデルと言われます。


先日歩いた半田山植物園に、スモモと並んでアンズの花が咲いていました。


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メジロが大好きな花のようです。


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アンズの話題は次回に続きます。


きょうはこれにて。


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