先日話題にした今井正監督「橋のない川」(第一部)の1シーンに、こんな場面があったような気がします。

北林谷栄演じる老婆、畑中ぬいが、地主の元に小作米を収めての帰り道、空になった大八車(荷車)に乗るよう嫁のふでに勧められ、寛いで後ろ向きに腰を下ろした彼女の目に、みごとな夕焼けで西の空が真っ赤に染まっているのが見えます。

「見てみい。おふで。あの向こうが西方浄土ゆうてなあ、お釈迦はんが住んではるところやで。あそこには、差別も貧乏もないのやで。この世で、どんなに辛くても、辛抱して、お釈迦はんにおすがりしとったら、あそこへ行けるんやで。」

というようなことを、しみじみ語る場面。まことにあやふやなうろ覚えで、正確なところは確かめるいとまがありませんし、住井すゑさんお原作も斜め読みに当たってみましたが、見あたりません。でも私の記憶の中では、印象的な場面なのです。

前にも書きましたが、映画「橋のない川」(第一部)は、モノクロ映像がずーっと続きます。ですから、この「西方浄土」を眺めやる場面も、実際はモノクロ映像だったのでしょうが、私の脳裏には鮮やかな紅い夕焼けの映像が刻まれています。