生老死悟り顔なる夏蛙
蛙の表情は、ともすれば哲学者みたいと、言う人があります。同感です。この小さな、ひ弱な生き物たちは、それぞれに、生老死にかかわる様々な煩悶や苦悩と向き合い、「蛙として、蛙らしく生きる」という悟りに達しているのでしょうか?

水上勉氏に「ブンナよ木から降りてこい」という児童向けの作品があります。ブンナは、釈迦の悟りの遅い弟子ブンナーガにちなんだ名前を持つトノサマガエル。木登りが得意です。
ある時ブンナは高いシイの木のてっぺんに登るが、そこは、実は鳶の巣であり、逃れがたい「生命の連鎖」の諸相に直面する場所だったのです。
、「生命の連鎖」の重みや、いのちを繋いで生きることの尊さを、子どもたちと一緒に考えさせるこの作品は、舞台演劇やアニメーション映画にもなりましたね。私は残念ながら、観てませんけれど。

抜き書きメモ
「弱いってことは、わるいことではないよね、かなしいことだけど……わるいことではないよね」(雀の言葉)
「ブンナよ、おまえはいつでも死ぬ覚悟ができているか。この世は弱肉強食の世界だ。かえるにうまれたおまえは、いつへびにみつかっても、鳶にみつかっても、みぐるしくなく、つれていゆかれる心ができていなければならない。ブンナよ、覚悟はできているか」(老蛙の言葉)