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「初夢」「梅の花」「相撲」の三題噺、の巻 [あれやこれやの知ったか話]

え~、毎度馬鹿馬鹿しいお笑いを一席申し上げます。

正月も早や幕の内をすぎましたが、正月にちなんだ三題噺でご機嫌を伺うことといたします。

お題は、おめでたいところで、「初夢」「梅の花」「相撲」でございます。



「初夢」

M師から、こんなお正月メールをいただきました。
 初夢は一富士、二鷹、三茄子と言いますが、この三つを写しにkazgさんの近所を回りました。



一富士のつもりです。

二鷹は7区でチョウゲンボウを見ましたが撮影はできませんでしたので吉備中央町で写したハイタカです。



三茄子もちょっと無理がありますがこれでどうでしょう。



 藤田7区にはこんなのもいました。


触発されて、私もkazg版初夢写真を狙ってみましたが、あきらめました。

昨年暮れのストック写真から、タカっぽいものを少々。

飛んでるのは何でしょう?











電柱にいるのはノスリ?





















こちらのサイト『 jaimo 』に、紹介されている三遊亭 円遊落語「宝船
という落語に。初夢のはなしがでてまいります。一部を引用します。

 一席申し上げます。

 年の暮れは、皆様が大層お忙しいが一夜明けまして正月となりますると、気が悠然といたしまして、何となく良い心持ちなものでございます。

 その内でも御大家様では、一月というと色々な又楽しみがございまして、大勢集まって福引などというものが、だいぶ流行して参りました。その以前では、子供衆のお遊びで、歌かるた、双六などというものをやりました。

 当今、又、歌かるたは盛んになって参りましたが!中には旦那様がお好きで、歌合せをするなどという、このくらい楽しみな事はございません。家中を集めて内輪同志で楽しみをする、誠に結構なものでございます。

 一夜明けると、昼間は誠に賑やかでございまして、二日の夜になると、お宝お宝、と言って売って歩く(人がいました)。彼は「宝が有り余る」というと、その“宝船”をこしらえて売りに出た。仕合せの悪い時には、「今年は縁起直しに宝船を売ろう」というので、売りに出るのでございます。

 これはあるお商人(あきんど)様で、夜分になって番頭をお呼びになりまして、

主人「番頭や、一体、彼の“宝船”というものは、どういう訳のものだ?」

番頭「左様にございます。私(わたくし)はよくは知りませんけれども、あの宝船を買いまして、枕の下へ当て、その晩寝たんだそうで、そういたしますと、まず初夢を見る、その初夢が結構な目出度い夢を見るそうでございます。それで夜分、みんな宜しい夢を見ようというので、枕の下へやって寝ます」

「ハア成程、それじゃァ、そいつを買って枕の下へやって寝ると目出度い夢を見る……(、という事か)」

「ヘエ、私がた、受け合い申す訳にはなりませんが、昔からマア見ると例えてありますから、大概は見るのでございましょう」

「お前が受け合うか」

「受け合う訳にはなりませんが、あるそうでございます」

「ハハア、それは面白い。俺はまだその宝船を買ってやって寝たことがない。こうしよう、お前がたも大変に骨を折ってくれ。家中のものがよく働いてくれるから、宝船屋から宝船を買って、それを家中でやって寝てしまう。で、朝までに各々目出度い夢を見た者には、それぞれ景物をやる」

「成程、それは結構なご趣向で」

(中略)

「イヤ、番頭かえ。どうだ夢を見たか」

「ヘエ、まず私(わたくし)の夢が第一等でございましょう」

「ハア、どんな夢を見た」

「昨晩、私が寝ますると」

「ウム」

「富士山の途中まで登りました」

「お前が………、ウム」

「途中まで参りますと、鷹が二羽おりまして、下を見ますると一面の茄子畑で」

「ウム」

「一富士二鷹三茄子と申します。これはその夢の司(つかさ)だそうで、これより好い夢はありますまい」



「ウム、それは結構な夢を見た、景物をやろう。マァお前のが一番良さそうだ、糸織が一反に金を五円やろう」

「有難うございます」


夢がでてくる落語のネタは数あるようで、「羽団扇」とも「天狗裁き」ともよばれる噺がございますな。

ウィキペディアからあらすじを引用させていただきます。

 あらすじ

家で寝ていた八五郎が妻に揺り起こされる。「お前さん、どんな夢を見ていたんだい?」

八五郎は何も思い出せないので「夢は見ていなかった」と答えるが、妻は納得せず、隠し事をしているのだと疑う。「夢は見ていない」「見たけど言いたくないんだろう」と押し問答になり、夫婦喧嘩になってしまう。

長屋の隣人が夫婦喧嘩に割って入るが、経緯を聞いた隣人も夢の内容を知りたがる。「そもそも夢は見ていないので話しようがない」と八五郎は言うが隣人は納得せず、またも押し問答から喧嘩になってしまう。

今度は長屋の大家が仲裁に入った。大家もやはり八五郎の夢について知りたがる。八五郎は「夢を見ていない」と弁解するが大家には信じてもらえず、「隠し事をするような奴はこの長屋から出て行け」と言われてしまう。

八五郎が立ち退きを拒否したため、奉行所で詮議されることとなった。奉行は八五郎に好意的だったが、やはり八五郎の夢に興味を持ち、見た夢を聞き出そうとする。八五郎は「夢は見ていない」と答えるが奉行の怒りを買い、縛り上げられて奉行所の庭木に吊るされてしまう。

吊るされた八五郎が途方に暮れていると、突風が吹いて八五郎の体が宙に浮く。気が付くと山奥にいて、目の前には大天狗が立っている。奉行所の上空を飛翔中、理不尽な責苦を負わされている八五郎に気が付いたので、助け出したのだと大天狗は言う。大天狗もまた八五郎の夢のことを聞きたがる。「夢を見ていないので話しようがない」と八五郎は今まで同様に弁解するが、やはり信じてもらえない。大天狗は怒り出し、八五郎の喉元につかみかかる。首筋に大天狗の長い爪が食い込み、八五郎は苦しみ悶える。

気が付くと八五郎は家で寝ていて、妻に揺り起こされていた。うなされていたようだ。「お前さん、どんな夢を見ていたんだい?」


他にも、よく知られたところでは、「芝浜」という人情話がございます。

ウィキペディアからの引用です。

 天秤棒一本で行商をしている、魚屋の勝は、腕はいいものの酒好きで、仕事でも飲みすぎて失敗が続き、さっぱりうだつが上がらない、裏長屋の貧乏暮らし。その日も女房に朝早く叩き起こされ、嫌々ながら芝の魚市場に仕入れに向かう。しかし時間が早過ぎたため市場はまだ開いていない。誰もいない、美しい夜明けの浜辺で顔を洗い、煙管を吹かしているうち、足元の海中に沈んだ革の財布を見つける。拾って開けると、中には目をむくような大金。有頂天になって自宅に飛んで帰り、さっそく飲み仲間を集め、大酒を呑む。

翌日、二日酔いで起き出した勝に女房、こんなに呑んで支払いをどうする気かとおかんむり。勝は拾った財布の金のことを訴えるが、女房は、そんなものは知らない、お前さんが金欲しさのあまり、酔ったまぎれの夢に見たんだろと言う。焦った勝は家中を引っ繰り返して財布を探すが、どこにも無い。彼は愕然として、ついに財布の件を夢と諦める。

つくづく身の上を考えなおした勝は、これじゃいけねえと一念発起、断酒して死にもの狂いに働きはじめる。懸命に働いた末、三年後には表通りに何人かの若い衆も使ういっぱしの店を構えることが出来、生活も安定し、身代も増えた。その年の大晦日の晩のことである。勝は妻に対して献身をねぎらい、頭を下げる。ここで、女房は告白をはじめ、例の財布を見せる。

あの日、勝から拾った大金を見せられた妻は困惑した。十両盗めば首が飛ぶといわれた当時、横領が露見すれば死刑だ。長屋の大家と相談した結果、大家は財布を拾得物として役所に届け、妻は勝の泥酔に乗じて「財布なぞ最初から拾ってない」と言いくるめる事にした。時が経っても落とし主が現れなかったため、役所から拾い主の勝に財布の金が下げ渡されたのであった。

事実を知った勝はしかし、妻を責めることはなく、道を踏外しそうになった自分を助け、真人間へと立直らせてくれた妻の機転に強く感謝する。妻は懸命に頑張ってきた夫の労をねぎらい、久し振りに酒でも、と勧める。はじめは拒んだ勝だったが、やがておずおずと杯を手にする。「うん、そうだな、じゃあ、呑むとするか」といったんは杯を口元に運ぶが、ふいに杯を置く。「よそう。また夢になるといけねえ」

三遊亭圓朝の三題噺がもとだそうで、お題は、「酔漢」と「財布」と「芝浜」だったといいますな。(「笹飾り」「増上寺の鐘」「革財布」の三題噺とも。)



「梅の花」

落語の世界には、酒が巻き起こす失敗譚・滑稽譚は事欠きませんが、今日、車を運転しながら聞いていた落語CD、柳家小さんの「猫の災難」も愉快な噺です。

こんなあらすじです。(ウィキペディアより)

 あらすじ

朝湯から帰ってきて、一人でぼんやりしていると急にお酒が飲みたくなってきた。

しかし、熊五郎は一文無し。逆立ちしたってお酒が飲めるわけがない。

「飲みてえ、ノミテェ…」と唸っているところに、隣のかみさんが声をかけた。

見ると、大きな鯛の頭と尻尾を抱えている。

なんでも、猫の病気見舞いに特大の鯛をもらって、身を食べさせた残りだという。
捨てに行くというので、「眼肉(咀嚼筋)がうまいんだから、あっしに下さい」ともらい受けた。

「このままだと見栄えが悪いな。そうだ…」

ざるの上に載せ、すり鉢をかぶせてみたら何とか鯛があるような形になった。これで肴はできたが…肝心なのは『酒』だ。

「今度は、猫が見舞いに酒をもらってくれないかな…」

ぼやいていると、そこへ兄貴分が訊ねてきた。

「酒や肴は自分が用意するから、一緒にのまねぇか?」

そういった兄貴分が、ふと台所に目をやって…件の『鯛』を発見した。

「いい鯛が在るじゃねぇか!」

すり鉢をかぶせてあるので、真ん中がすっぽり抜けていることに気づかない。

「ジャア、後は酒を買ってくるだけだな。どこの酒屋がいいんだ?」

近くの酒屋は二軒とも借りがあるので、二丁先まで行って、五合買ってきてもらうことにした。
さあ、困ったのは熊だ。いまさら『猫のお余りで、真ん中がないんです』だなんていえる訳がない。
思案した挙句、酒を買って戻ってきた兄貴分に【おろした身を、隣の猫がくわえていきました】と告げた。

「どっちの隣だ? 俺が文句を言いにいってくる!!」
「ちょっと待ってくれ! 隣のうちには、日ごろから世話になってるんだよ…」

『我慢してくれ』と熊に言われ、兄貴分、不承不承代わりの鯛を探しに行った。

「助かった…。しかし、どんな酒を買ってきたのかな?」

安心した途端、急にお酒が飲みたくなる。

「どうせあいつは一合上戸で、たいしてのまないからな…」

冷のまま、湯飲み茶碗に注いで「いい酒だ、うめえうめえ」と一杯…また一杯。
兄貴分の分は別に取っておこうと、燗徳利に移そうとした途端…手元が狂って畳にこぼした。

「おわっ!? もったいねぇ!!」

畳に口をつけてチュウチュウ。気がつくと、もう燗徳利一本分しか残っていない。

「参ったな。如何しよう…。仕方がない、また隣の猫に罪をかぶってもらうか」

兄貴分が帰ってきたら、【猫がまた来たので、追いかけたら座敷の中を逃げ回って、一升瓶を後足で引っかけて…】と言うつもり。
そうと決まれば、これっぱかり残しとくことはねえ…と、熊、ひどいもので残りの一合もグイーッ!

「いい休みだな。しかし、やっぱり酒がすべてだよ。花見だって、酒がなければ意味がねぇしな」

『夜桜ぁ~やぁ~♪』と、いい心持で小唄をうなっているうち、《猫を追っかけている格好》をしなければと思いつき、向こう鉢巻に出刃包丁。
セリフの稽古をしているうち…眠り込んでしまった。

一方、鯛をようやく見つけて帰った兄弟分。熊は大鼾をかいて寝ているし、一升瓶をみたら酒がすべて消えている。

「なにやってんだよ!!」
「ウー…だから、隣の猫が…」
「瓶を蹴飛ばして倒した!? なんて事を…ん? この野郎、酔っぱらってやがんな。てめえがのんじゃったんだろ」
「こぼれたのを吸っただけだよ」

『隣に怒鳴り込む』と、兄貴分がいきまいている所へ、隣のかみさんが怒鳴り込んできた。

「いい加減にしとくれ。家の猫は病気なんだよ。お見舞いの残りの鯛の頭を、おまえさんにやったんじゃないか!」

物凄い剣幕で帰っていった。

「どうも様子がおかしいと思ったよ。この野郎、おれを隣に行かせて、いったい何をやらせるつもりだったんだ!?」

「だから、隣へ行って、猫によーく詫びをしてくんねえ…」


ちなみに、上方版のオチは以下の通り。

 上方版のオチ

猫が入ってきたので、阿呆が『ここぞ』とばかり声を張り上げる。

「見てみ。可愛らし顔して。おじぎしてはる」

それを聞いて、猫が神棚に向かって前足を合わせ…。

「どうぞ、悪事災ニャン(=難)をまぬかれますように」

ちなみに、上方版では貰ってくるのは『腐った鯛のアラ』で、くれたのは『酒屋』という設定。

噺の中に、こんな都々逸(どどいつ)が出てきますな。

一人飲んで酔った熊が、ご機嫌でこう歌います。

お酒飲む人 

花なら蕾

今日も咲け咲け

明日も咲け

今日の散歩で通りかかった道端に、紅梅がほころび始めていました。











梅にウグイスじゃありませんが、枇杷(ビワ)にメジロはどうでしょう?











「相撲」

大相撲初場所が始まりました。

「ヨッ!竜田川!」「頑張れ」というかけ声が聞こえませんか?

竜田川?知らねえなあ、って?

江戸時代の、強えお相撲で、大関にまでなった人だ、、、。

おなじみの落語「千早振る」の一節です。

これまたウィキペディアの引用です。

あらすじ


岩田の隠居は、「先生」の異名を持っている。ある日、茶を飲んでいると、なじみの八五郎が訪れてくる。なんでも、娘に小倉百人一首の在原業平の「ちはやふる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」という歌の意味を聞かれて答えられなかったため、隠居のもとに教えを請いにきたという。実は隠居もこの歌の意味を知らなかったが、知らぬと答えるのは沽券にかかわると考え、即興で次のような解釈を披露する。

江戸時代、人気大関の「竜田川」が吉原へ遊びに行った。その際、「千早」という花魁に一目ぼれした。ところが、千早は力士が嫌いであったため、竜田川は、振られてしまう(「千早振る」)。振られた竜田川は、次に妹分の「神代」に言い寄るが、こちらも「姐さんが嫌なものは、わちきも嫌でありんす」と、言うことを聞かない(「神代も聞かず竜田川」)。

このことから成績不振となった竜田川は、力士を廃業し、実家に戻って家業の豆腐屋を継いだ。それから数年後、竜田川の店に一人の女乞食が訪れ、「おからを分けてくれ」と言う。

喜んであげようとした竜田川だったが、なんとその乞食は零落した千早太夫の成れの果てだった。激怒した竜田川は、おからを放り出し、千早を思い切り突き飛ばした。千早は、井戸のそばに倒れこみ、こうなったのも自分が悪いと井戸に飛び込み入水自殺を遂げた(「から紅(くれない)に水くぐる」)。

八五郎は「大関ともあろう者が、失恋したくらいで廃業しますか」、「いくらなんでも花魁が乞食にまで落ちぶれますか」などと、隠居の解説に首をひねり通しだが、隠居は何とか強引に八五郎を納得させた。

やれ安心と思ったところに、八五郎が、「『千早振る、神代も聞かず竜田川、からくれないに水くぐる』まではわかりましたが、最後の『とは』は何です」と突っ込んだ。

とっさの機転でご隠居はこう答えた。

「千早は源氏名で、彼女の本名が『とは(とわ)』だった」


小三生が、冬休みの宿題で、百人一首をいくつか覚えることになっていましてな、兄やバアバと、カルタ取りで遊んでおりました。でも、意味がわからんと言いますのでな、竜田川のお話をしてやりました。

ほんと?ほんとにほんと?と疑いながらも、みんなで面白がっていました。

念のために申し添えますが、wikiには、こういう解説も添えてあります。

すなわち「ちはやふる」(ちはやぶる)は「神」などにかかる枕詞として「神代も聞かず」を導き、上句は「神代にも聞いたことがない」と述べる。下句がその内容となる。竜田川は現奈良県生駒郡などを流れる川で、紅葉の名所として知られる。唐紅は大陸由来の鮮やかな紅であり、「水くくるとは」の「くくる」はくくり染めのことで、ところどころ生地が赤く染まった布と竜田川のところどころ赤く美しい紅葉の風景を重ねて詠んでいる。すなわち「山を彩る紅葉が竜田川の川面に映り、唐紅のくくり染めのようである。このようなことは神代にも無かっただろう」といった意味となる


自分のブログを検索してみましたら、この「千早振る」の歌の作者在原業平は、こんなに頻繁に登場していました。

◇霙降る枇杷の蕾にメジロかな

降り敷くは唐紅の錦かな(語彙貧困、安直無類、真情不在、拙劣至極)

◇たなばたといせものがたりと良寛と

◇はるやはる弥生つごもりエトセトラ

◇さくらの日

◇椿とは失礼しちゃうわ!山茶花よ!

◇朝顔とカキツバタと八つ橋と、の巻◇かきつばた見んとて訪ひたる後楽園

◇お名前は?しらん!

◇続けて「これなあに?」

特に最後の、◇続けて「これなあに?」には、伊勢物語から「マユミ」の記事が登場します。少々引用して再掲します。

 
マユミは、ニシキギ科ニシキギ属の中低木
 その枝は、弾力があって折れにくく、樹皮を剥いで、薪(まき)などを縛る縄の代わりにしたり、ざるの縁木などにも利用されました。また、木質が緻密でゆがみが少なく耐久性に優れるため、弓の材料として用いられました。漢字で「真弓」と書きます。




真弓にちなむ文章を一節。


「伊勢物語」の 二十四段です。


昔、男片田舎にすみけり。男宮づかへしにとて、別れ惜しみてゆきけるままに、三年(みとせ)来(こ)ざりければ、待ちわびたりけるに、いとねむごろにいひける人に今宵(こよひ)あはむとちぎりたりけるに、この男来たりけり。「この戸あけたまへ」とたたきけれど、あけで歌をなむよみて出(いだ)したりける。

 

  あらたまの年の三年を待ちわびてただ今宵こそ新枕(にひまくら)すれ

といひだしたりければ、

 

  梓弓(あずさゆみ)ま弓(まゆみ)槻弓(つきゆみ)年をへてわがせしがごとうるはしみせよ



といひて去(い)なむとしければ、女、

 

  梓弓引けど引かねど昔より心は君によりにしものを

 

といひけれど、男かへりにけり。女いとかなしくて、しりにたちておひゆけど、えおひつかで清水(しみず)のある所に伏しにけり。そこなりける岩におよびの血して書きつけける、

 

  あひ思はで離(か)れぬる人をとどめかねわが身は今ぞ消えはてぬめる

と書きて、そこにいたづらになりにけり。

 

 

【解釈】

 昔、ある男が、片田舎に住んでいた。その男が、出仕するといって女に別れを惜しみつつ都へ行ってしまったまま、三年間女の元へやって来なかった、女は待ちあぐねて辛い思いをしていたところへ、たいそう熱心に求婚してきていた別の男と、「今夜結婚しよう」と約束した。そこへ、都に出ていた男が帰ってきた。


「この戸を開けておくれ」と言って叩いたが、女は戸を開けないで、歌を詠んで差し出した。

 <三年間ずっとあなたを待ちに待って、待ちくたびれてしまい、ちょうど今夜、私は新しい人と結婚するのです。>

と詠んで男に差し出したところ、

 <いろいろと年月を重ねて、その間ずっと私があなたにしていたように、新しい夫を愛し慈しんでください。>

と男は言って、帰ろうとした。女は、

 <あなたが私の気を引こうと引くまいと、私の心は昔からあなたに寄り添っていましたのに。>

と言ったが、男は行ってしまった。女はたいそう悲しくて、男を追いかけたが追いつけず、湧き水が出ているところに、うつぶしてしまった。そこにあった岩に、指から出た血で書きつけた歌は、

 <私がこんなにあなたを愛しているのに、お互いに愛し合うことにならないで、離れていくあなたをどうしても引きとめることができず、私の体は、たった今、消え果ててしまうようです。>

と書いて、そこで死んでしまった。




以前、私は、これを、地方語で翻訳してみました。

 昔、男が、どいなかに住んどったんじゃて。その男ぁ、田舎ぐらしから抜け出したい思うたかして、「ちいとばぁ、都へ奉公に行ってくらあ」言うて、嫁さんと別れを惜しんで一人で出かけて行ったんじゃ。それっきり、三年帰って来なんだもんじゃから、嫁さんの方は、くる日もくる日も亭主の帰りを待ち侘びとったんじゃけど、そのうちに、親切に言い寄ってくる男ができたんじゃ。嫁さんは、一人暮らしは心細うはあるし、よさそうな男じゃぁあるしで、気持ちは引かれたんじゃろうが、「今に亭主が帰ってくるかもしれんから」言うて、断り続けておったんじゃ。じゃけど、とうとう「もう限界だわ!私、過去を振り切って、新しい生活に踏み出すことにするわ!」と決心して、結婚することにしたんじゃ。その今晩が結婚式じゃという約束の夜、亭主が帰って来たんじゃて。

 「わしじゃ。帰ったで。この戸を開けてくれぇ。」言うて、戸をたたいたけど、嫁さんは開けちゃらずに、歌を詠んで戸口から差し出したんじゃ。

   三年もアンタのことを待ち侘びて、つらぇ思いをして来たんで。そのアンタがいつまでも帰らんもんじゃから、しょうことなしに、ほんの今晩結婚することにしたんヨ。それを、なんでぇ。アンタ言うたら、今頃帰って来てからに、「開けてくれぇ」もねえもんじゃ。

こういうて言うたもんじゃから、亭主のほうは、

  梓弓ゆうたり真弓ゆうたり槻弓ゆうたりして色々な弓があるけど、その槻弓のツキ(月)に縁があるのが年という言葉じゃ。その年を、これまで何年も何年もの間、ワイがお前にしてやったように、これからは、お前も新しいムコさんを大事にいつくしんで暮らしてやってくれぇや。ほんなら、ワイはこれで帰らぁ。

と言うて、行ってしまおうとしたもんじゃから、嫁さんは、

   アンタがウチを大事にしてくれたかどうかは知らんけど、どっちにしても、ウチの心は、アンタに首ったけだったんよ。ちょっと待ってぇ。

と言うたんじゃけど、亭主は耳も貸さずにさっさと帰ってしもうたんじゃ。

嫁さんは、ぼっこう悲しゅうて後から追いかけて行ったんじゃけど、よう追いつかんで、清水の湧きょぅるとこに伏さってしもうたんじゃ。そこにあった岩に、指から血を出ぇて書き付けたんじゃと。

  ウチゃあこねえにアンタが好きなのに、両方が好き合うことにならずに、心が離れて行ってしもうたアンタを引き留めかねて、ウチのからだは、たった今消えて行ってしまいそうに思えてならんわぁ。

ゆうて書いて、その場所で死んでしもうたんじゃと。おわり。 


伊勢物語の「みやび」の世界が、ずいぶん泥臭くなってしまいました(笑)。 



強引なちからわざで、マユミまでたどり着きました。

これが昨日の雨に濡れたマユミです。



























おあとがよろしいようで。
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じゅんじい

飛んでるのはノスリで、
電柱にとまってるのはチョウゲンボウの様ですね。
by じゅんじい (2017-01-09 19:20) 

kazg

じゅんじい様
ありがとうございます。
ああ、そうか。チョウゲンボウですか。
今後とも、よろしくご教示くださいませ。 
by kazg (2017-01-09 19:42) 

yakko

お早うございます。
三題噺 ! 面白く詠ませて戴きました∈^0^∋
でも最後の噺は可哀想でしたね(; ;)
by yakko (2017-01-10 09:01) 

makkun

kazgさん 
こんにちわ~(^^
コメントありがとうございました~
古希間近の年寄りには心身疲労は困りましたが
また、頑張ってブログを楽しみたいと思いますので
宜しくお願い致しま~すd(*^o^*)b

by makkun (2017-01-10 12:49) 

美美

柿にホシムクドリですか?
なんて羨ましいことでしょう。
今年は一つでも初見の鳥を増やしたいものです。
新年のご挨拶が大変遅れましたが
今年もどうぞよろしくお願い致します。
by 美美 (2017-01-10 16:23) 

kazg

yakko様
最後のはなし、勝手な男ですよね。
by kazg (2017-01-10 19:51) 

kazg

makkun様
記事、ますます楽しみにしております。
これからも、よろしくお願いします。
by kazg (2017-01-10 19:53) 

kazg

美美様
柿にホシムクドリ、鳥見の師が撮影されました。今期は、私は遭遇しておりません。うらやましいです。
初見の鳥、楽しみですね。
今年もよろしくお願いいたします。
by kazg (2017-01-10 19:57) 

majyo

読んでいて 梅の花は利いた覚えがあります
こさんですか
一時 落語も聞いていましたが なかなか
セット上げちゃいました。DVDを

by majyo (2017-01-10 20:10) 

kazg

majyo様
以前は、ラジオやテレビで放送されていれば聞く程度でしたが、脳動脈瘤手術の見舞いに、元同僚の先輩が、古今亭志ん朝の高座の録音CDを送ってくださったのがありがたく、やみつきになりました。
レンタルショップや図書館で借りたり、百円ショップで買ったり(なぜか最近見ません)して、ずいぶん沢山聞きました。
DVDも持っていますが、運転中のカーオーディオで聞くには、CDが好適です、、。
by kazg (2017-01-10 22:32) 

momotaro

おめでたいお噺をなんとか正月中に読むことができました。
by momotaro (2017-01-29 06:36) 

kazg

ちょうど春節(旧正月)ですので、ジャストタイミングでした(笑)
ご多忙のなか、ご訪問、コメントありがとうございました。
by kazg (2017-01-30 08:13) 

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