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郷愁という名のメルヘン カルロス爺さんの思い出 連載第14回(最終回) [木下透の作品]

このカテゴリーの文章は、おおむね、私自身の回想に関わるので、常体(だ・である調)で書くことにする。

木下透は、私の高校時代の筆名である。彼の作品を紹介するのが、趣旨である。未熟さは、その年齢のなせる業なので、寛容な目で見てやっていただきたい。

高三の時に書いた「短編小説」を、連載で紹介したい。今日は、その第14回目。最終回である。



 郷愁という名のメルヘン

カルロス爺さんの思い出 

連載第14回(最終回)

臆病者?非国民?言いたい奴には言わしておけ。
銃を持つのを嫌がったぼくが非国民なら、銃を持って 敵兵を撃った奴は何だ――非人間!!そうとも。貴様らの撃った相手は、本当に貴様らの敵だったか。否。それは、貴様らと同じ農民であり、労働者であり、優 しき父であったり、頼もしき兄であったはずだ。貴様らの撃ったのは、貴様らの直接の敵じゃない。ならば、貴様は、何故に銃をとるのだ。国のため?国を守 る?家を守るように?ヘドだ。ぼくらが守りたいのは、自由と平和であり、ぼくらの家であり、妹や子供達の命であるのだが、貴様らが「守れ!」と命令された のは、国土であり、国家秩序であり、資本家達の営利・・・だったわけさ。
貴様らだってわかっているはずだ。わかっていながら、ぼくのことを国賊だ、臆病だとののしるってことは、どういうことだ。つまり、臆病なのは、貴様らの方だってことじゃないのか。そして、ぼくだって、もしも徴兵に応じていれ ば、やはり、立派な臆病者になれていたってわけさ。

案の定、ぼくは捕えられ、今、刑務所の固い寝台の上に座って、こうして昔を想っている。
学校での仲間たちは、今、戦場にいる。
ぼくは、こうして、非国民として牢獄の中にいる。
ばくはさんざんの非難と嘲笑を受けながら生きている。
ぼくの家族達も、きっと、村人達に白眼視されながら、ぼくのことを恨んでいるだろう。(けれど、母さんは、ぼくに言うだろうか。立派に殺して、死んでおいで・・・と)
ぼくは、今、とっても寂しい。そして苦しい。けれど、何だか快い。少しも自分を責めてはいない。
ぼくはとにかく戦った。とうてい歯の立たぬ相手ではあったが、そして、敗れはしたが、とにかくぼくは戦った。
爺さんも言ってたっけ。
「負けてもいいから戦え」と。
「負けたら泣けばいいんだ」と。
ぼ くには力がなくって、ぼく一人じゃなんにもできなかったけれど、どうか君。君もいつまでも、育児なく逃げ回ることはおよしよ。そして、はっきり見つめてご らん。君の目の前にいる本当の敵を。弱者同士、傷つけ合うのを喜んで眺めている輩を。人を傷つけなけりゃ、自分の幸福はあり得ないと、主張する輩を。ぼく ら弱者の血で、身を肥やしている輩を。そして、奴らに追従しようとしていたぼくら自身の卑屈さを。両のこぶしを固く胸に握りしめて、しっかりと目に留め て、忘れちゃならない。(つづく)
最後に(つづく)とあるが、この作品は、ここで終わっている。
執筆中、高校生の私は、「受験」でも終わって落ち着いたら、続きを書きたいと想っていた。「つづき」は、獄中記になるはずだった。
厳しいが希望のある、楽天的な抵抗の姿をかけないかと、ぼんやり思っていたが、果たせないまま、四〇年あまりが推移した。
 どういうきっかけが、私にこんな思いつきを与えたのか、記憶は定かではないが、おそらく住井すゑの小説「橋のない川」の感化があったかと思う。
 そして、たぶん、与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」にも、インパクトを受けていただろうと思う。
橋のない川〈第1部〉

橋のない川〈第1部〉


 
あゝおとうとよ、君を泣く
君死にたまふことなかれ
末に生まれし君なれば
親のなさけはまさりしも
親は刃をにぎらせて
人を殺せとをしへしや
人を殺して死ねよとて
二十四までをそだてしや

堺の街のあきびとの
旧家をほこるあるじにて
親の名を継ぐ君なれば
君死にたまふことなかれ
旅順の城はほろぶとも
ほろびずとても何事ぞ
君は知らじな、あきびとの
家のおきてに無かりけり

君死にたまふことなかれ
すめらみことは戦ひに
おほみずから出でまさね
かたみに人の血を流し
獣の道で死ねよとは
死ぬるを人のほまれとは
おほみこころのふかければ
もとよりいかで思されむ

あゝおとうとよ戦ひに
君死にたまふことなかれ
すぎにし秋を父ぎみに
おくれたまへる母ぎみは
なげきの中にいたましく
わが子を召され、家を守り
安しときける大御代も
母のしら髪はまさりぬる

暖簾のかげに伏して泣く
あえかにわかき新妻を
君わするるや、思へるや
十月も添はで 別れたる
少女ごころを思ひみよ
この世ひとりの君ならで
ああまた誰をたのむべき
君死にたまふことなかれ
 
小林多喜二や、その他のプロレタリア文学、特に鈴木清の「監獄細胞」などを読んだのは、まだずっと先のことだった。
独房・党生活者 (岩波文庫)

独房・党生活者 (岩波文庫)

  • 作者: 小林 多喜二
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/05/15
  • メディア: 文庫
本庄陸男 鈴木清集 (日本プロレタリア文学集)

本庄陸男 鈴木清集 (日本プロレタリア文学集)

  • 作者: 本庄 陸男
  • 出版社/メーカー: 新日本出版社
  • 発売日: 1987/04
  • メディア: 単行本

 
 
 
また、宮本百合子と宮本賢治の「十二年の手紙」も同様だ。
十二年の手紙 上 (新日本文庫 A 8-2)

十二年の手紙 上 (新日本文庫 A 8-2)

  • 作者: 宮本 顕治
  • 出版社/メーカー: 新日本出版社
  • 発売日: 1983/01
  • メディア: 文庫
十二年の手紙 下    新日本文庫 A 8-3

十二年の手紙 下  新日本文庫 A 8-3

  • 作者: 宮本 顕治
  • 出版社/メーカー: 新日本出版社
  • 発売日: 1983/01
  • メディア: 文庫

 

 

 

だが、「戦争が終わってぼくらは生まれた」わけで、「戦争を知らない」世代としては、 戦争に反対して投獄、という設定がリアリティを持ちにくくて、この先を書けないまま、中断しているという次第だ。


 先ほど、リアリティに乏しいと一旦書いたものの、朝日歌壇に載った次の短歌は、しかしリアリティ十分だった。

徴兵は命かけても阻むべし母・祖母・おみな牢(ろう)に満つるとも     石井百代

この歌の作者について述べた記事を見つけたので、引用・紹介しておく。

 
 
 
徴兵は命かけても阻むべし…の作者はどんな人

 〈問い〉 以前、「徴兵は命かけても阻むべし…」という歌があったと記憶していますが、作者はどんな人でしたか?(福岡・一読者)

 〈答え〉 「徴兵は命かけても阻むべし母・祖母・おみな牢(ろう)に満つるとも」

 石井百代(ももよ)さん(1903年1月3日―82年8月7日)が、78年にこの短歌を詠んだのは75歳のときでした(同年9月18日付朝日新聞「朝日歌壇」に掲載)。福田赳夫首相が有事立法の研究を指示した情勢のもとで詠まれました。

 選者の近藤芳美さんは選評で「…『母・祖母・おみな牢(ろう)に満つるとも』という結句にかけてなまなましい実感を伝えるものがある。一つの時代を生きて来たもののひそかな怒りの思いであろう」と書きました。

 戦争中は東京都に住み、3男4女の母でした。夫・正(ただし)さんは軍医としてマニラに。病弱だった大学1年生の長男・立(たつ)さんは火薬廠(しょう)に動員されます。二男は陸軍幼年学校、士官学校、航空士官学校を経て外地に。戦後、立さんが出版社に勤め労働組合運動に参加するようになり、その影響もあって夫婦は進歩的な考えを持つようになります。

 51年4月、夫は、静岡県相良町(さがらちょう。現・牧之原市)で耳鼻科の医院を開業。百代さんは、夫と一緒に読書会、映画研究会に入って地元の青年たちと交流。夫婦で日本共産党後援会の世話役もしました。

 「しんぶん赤旗」日曜版の「読者文芸 にちよう短歌」にもしばしば投稿。「マルクスの読書会終えわが夫と帰るこの夜の月澄みまさる」(65年12月5日号)と読書会のことを詠んでいます。

 69年8月に夫が亡くなってから、東京都世田谷区に住むようになりました。

 「徴兵は…」の短歌が発表されてから本紙記者が百代さんにインタビューしたとき「私は兄、おい、二人のいとこ、義弟を戦死させています。息子は病気で徴兵をまぬがれましたけど…」「でも私はあの戦争を聖戦と思い込んで、息子を戦争に差し出そうとしていたんです」と語っていました。

 罪ほろぼしのつもりで、と百代さんは女性の団体「草の実会」で平和問題などの学習をすすめます。そのなかで知った有事立法の動き。この短歌は体を張ってでも孫たちを戦場には送らないという彼女の決意でした。この歌は草色のスカーフに白く染め抜かれ、人々の口から口へと伝えられました。当時、自民党政府は有事立法に踏み切ることはできませんでした。

 選挙では日本共産党を応援しました。80年6月の衆参同時選挙の時、「投票は誰にしてよいか分からないのでいくまいと思う」という女性に、百代さんは「平和を守るために、ぜひ共産党へ投票なさい」とすすめています。(義)

 〔2006・6・10(土)〕

今日の散歩は、どんよりと垂れ込めた冬空から、時折氷雨がぱらつく悪コンディション。
 
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センダンの木に止まるキジバトも、いかにも寒そうでした。
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