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郷愁という名のメルヘン カルロス爺さんの思い出 連載第9回 [木下透の作品]

このカテゴリーの文章は、おおむね、私自身の回想に関わるので、常体(だ・である調)で書くことにする。

木下透は、私の高校時代の筆名である。彼の作品を紹介するのが、趣旨である。未熟さは、その年齢のなせる業なので、寛容な目で見てやっていただきたい。

高三の時に書いた「短編小説」を、連載で紹介したい。今日は、その第9回目。

 


 

郷愁という名のメルヘン

カルロス爺さんの思い出

 連載第9回

くもった眼鏡をはずして、袖口で何度もこすりながら、話をつづけた。
「わしはそれから、何も忘れた人間のように、何もなくした人間のように、何日間も何もしないで、暮らした。
わしは、泣くことも笑うことも、怒ることも忘れてしまっていた。
わしは死のうと思った。一日中銃を見つめていたこともあった。しかし死ねなかった。
ヘンニィルのことを思い出した。ヘンニィルは神父さまの所へ預けてあった。わしが引き取りに言った時、 ヘンニィルは遠くからわしを見つけて飛びついてきた。わしは生きねばならぬと思い始めた。わしは生きることができそうな気がしてきた。
そしてその日、わしは神父さまにわしの罪をざんげした。神父さまは、何度もうなずいて聞いていらしたが、わしが話し終わるのを待って、こうおっしゃった。
「あなたは生きなければなりません。あなたの罪はあなたを苦しめるでしょう。しかし逃げてはいけません。あなたが、今、私に打ち明けて下さった数々の哀しい出来事は、あなたのせいではなかったかも知れません。確かに、世界中が狂っていたのです。狂った群狼の前の一人の人間に何ができたかとおっしゃるかも知れません。
しかし、あなたは、怠ってはいなかったでしょうか。あなたは一体何をなさいましたか。あなたは、諦観と自虐をして、あなたの理性を慰めさせようとなさいました。
あなたは、戦おうとはなさいませんでした。そればかりか、あなたは、自分の弱さを恥じて死のうとなさったという・・・。あなたは、逃げてはいけません。もうこれ以上逃げてはいけません。あなたは生きなければなりません。苦しくても、――――苦しいに違いないのですが、――――生きなければなりません。
幸い、あなたには、ヘンニィルという可愛いお子さんがある。ヘンニィルのためにも、あなたは強くおなりなさい。
神のため、つまりはあなた自身のために戦える人間におなりなさい、
神を愛する人間、つまりあなた自身を愛せる人間におなりなさい。
神に愛される人間、つまりあなた自身に愛される人間におなりなさい。
逃げてはいけません。まして、自分の弱さに甘えてはなりません。」
わしは生きようと思った。
ヘンニィルを立派に育てようと思った。
ヘンニィルには、強くなってほしいと思った。
より敬虔で、自分自身に忠実な人間になって欲しいと思った。
わしのようには、なって欲しくはなかった。
戦さの光景を思い出すたびに、わしは   その残虐性を知らぬふりをしていた自分を、そして、そのうえ、その残虐な狂人になりきってすましていた自分を憎悪した。
H村での、行為を思い出すたびに、わしは身震いを禁じ得なかった。
あの村人達のことを思うと、わしは生きていることを苦しいと思った。生きることはこんなにも辛いと思った。
しかし、逃げてはいけないんだ。負けてはいけないんだと、言い聞かせた、ヘンニィルのために生きよう。いや、ヘンニィルのためにわしは強い人間になろう。ヘンニィルが、己の親父を世間に恥じなくてもいいように、わしはより善く生きよう。
わしは、地主さまの小作人として働いた。貧乏したが幸福だと思った。ヘンニィルはすくすくと育った。
ヘンニィルは優しい少年だった。
いつもわしのことを思ってくれた。わしはヘンニィルを誇りに思った。わしの唯一の生きがいでもあった。


寒さがつのります。

 

これは、寒風に舞うミサゴ。一昨日の撮影です。

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chokou

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