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卯の花を簪にアジアイトトンボ [折々散歩]

先日、ひと月以上も前でしたでしょうか、元同業者の親しい何人かが寄った機会に、H女史が、白い花をたわわに咲かせた一抱えの枝を、花瓶に挿しながら「これ何かわかる?』とみんなに聞きました。

花に見覚えはありましたし、既知の情報として認識していたはずですが、最近、海馬の耄碌が進んだせいか、脳内情報を的確に取り出す回路が滞っているらしく、知悉の記憶もぼんやりとして思い出せないことがしばしばあります。

確信が持てないもどかしさを伴いながらも、「今の季節を象徴する花」というヒントに誘引されて、「卯の花」と答えました。ほぼ当てずっぽうでしたが、あたりでした。

奥の細道の「卯の花をかざしに関の晴着かな」という句なども話題に出て、一瞬文学同好者の集まりのような、芳しい空気が漂うのも、好ましいひとときでした。

卯の花の話題はそれで切り上げて、本来の実際的・実務的な方面へと主題が移ったのですが、最近続けざまに、卯の花と出会う機会がありました。先日、お昼のお弁当に、スーパーでおからの炒り煮を買って職場にもって行ったことは、この話題から除外します。

マクロレンズを持って深山公園に行った時、目を引かれたこの花。



「ウツギの花」と表示がありましたが、そういえば、幹が空洞なので空木(ウツギ)と名づけられ、「ウツギの花」がつづまって「ウノハナ」と呼ばれるようになったとか、「ウノハナ」が野山を一面に彩る季節を「卯月(ウヅキ)」=旧暦四月の異名とよぶようになった、などの知識は、耳にもし、人にも語った事があったはずでしたが、すっかり忘れておりました。
翌日、田舎の実家に帰る途中、ちょっとだけ立ち寄った「自然保護センター」でも、あちらこちらにこの花が咲いておりました。





同じ「ウツギ」の名がつく木に、幾つもの品種があるそうですね。この紅白の色鮮やかなのは、「源平ウツギ」?---「ハコネウツギ」でよろしかったかしら?





最初に紹介した真っ白い「ウツギ」=「ウノハナ」は、ユキノシタ科だけれど、この「ハコネウツギ」はスイカズラ科タニウツギ属だそうですね。赤い花を咲かす「タニウツギ」もよく庭木などとして珍重されるそうです。
ところで、昔(結婚したばかりの二〇代の頃)、ご近所さんからウツギの株を戴いて、各地を引っ越しする度に移植に移植を重ねてきました、丈夫な木で、ほとんど世話もしないのに、初夏(梅雨)の頃、律儀に可愛い花を咲かせてくれていました。余りに丈夫な木なので、切り詰めるだけ切り詰めて、世話らしい世話もしないでいるうちに、いつの間にか枯れてしまったようです。思えば、不憫なことをしました。
今では不確かですが、それは「タニウツギ」だったでしょうか?
芭蕉の「奥の細道」に登場する「卯の花」は、冒頭の写真の真っ白いウツギの花でしょうね。

「白川の関」     奥の細道
心許なき日かずかさなるまゝに、白川の関にかゝりて、旅心定りぬ。いかで都へと便り求めしもことわりなり。中にもこの関は三関の一にして、風騒の人、心をとゞむ。秋風を耳に残し、紅葉を俤(おもかげ)にして、青葉の梢猶あはれなり。卯の花の白妙に、茨(いばら)の花の咲きそひて、雪にもこゆる心地ぞする。古人冠を正し、衣装を改し事など、清輔の筆にもとゞめ置れしとぞ。
卯の花をかざしに関の晴着かな 曽良 

【解釈】
わたくし芭蕉は、旧暦の四月二十日(新暦六月七日)、那須湯本から芦野の「遊行柳」を経て更に北へと旅し、国境をめざし、そのまま奥州街道を北へ歩いて白河(白川)領に入りました。
わたくしは、3月に江戸を出発しました時から、歌枕(つまり古歌に歌われた名所)としてチョー有名な「白川の関」を訪ねてみたいとずっと思っておりましたのじゃ。とっく昔に廃止されて何百年も経っておりますから、その場所は言い伝えによるしかないのですが、このあたりだったことは間違いありますまい。 
なかなか旅に慣れることができず、気持ちばかりがはやって着かない日々を重ねるうちに、目的の白河の関にさしかかり、ようやく本腰入れて長旅を続ける心構えが定まりましたわい。
むかし、平兼盛が、「たよりあらばいかで都へ告げやらむ 今日白河の関は越えぬと(「拾遺集」)」と、何とかして関越えの感動を都の人に知らせたいと歌ったのももっともですなあ。
 数ある中でもこの関は、奥州三関の一つに数えられ、風雅を求める人が心を寄せた場所ですじゃ。わたくしの尊崇する旅の歌人西行法師も、「白河の関屋を月のもるかげは 人の心をとむるなりけり(「新拾遺集」)」と詠んでおりますわい。また、能因法師が、「都をば霞とともに立ちしかど 秋風ぞ吹く白河の関(「後拾遺集」)」と詠んだ「秋風」の音を耳に聞き、同時に、「都にはまだ青葉にて見しかども 紅葉散りしく白河の関(「千載和歌集」)」という源頼政の歌の「紅葉」を思いながら、眼前の青葉のこずえをながめていると、実にしみじみと心が動かされることですぞ。
折しも目の前には、青葉の中に卯の花が真っ白に咲いているところに、茨が白く咲き添って、まるで雪の中を、関を越えているような心地がいたします。ホント、いろんな季節がいっぺんに楽しめるようですわい。
この関を通るとき、古人(竹田大夫国行)は(能因法師の歌に敬意を表して)冠を正し、衣装を改めたと言うエピソードが、藤原清輔の「袋草紙」に書きとめられているそうですな。わたくしら一行にはその用意もありませんので、同行の弟子、曽良がこう詠んだものでした。
やつれた旅姿の私どもは、晴れ着の持ち合わせもございませんから、せめて卯の花をかざし(=かんざし。髪飾り)にして関を通ることにいたしましょうぞ。



そういえば、『奥の細道』では、奥州平泉を訪ねた場面でも、卯の花が登場します。

「平泉」の段については、以前、この記事でも触れたことがありましたが、今回はもう少し長い引用におつきあいください。
平泉

 
 三代の栄耀一睡のうちにして、大門の跡は一里こなたにあり。秀衡が跡は田野になりて、金鶏山のみ形を残す。まづ高館に登れば、北上川、南部より流るる大河なり。衣川は和泉が城を巡りて、高館の下にて大河に落ち入る。泰衡らが旧跡は、衣が関を隔てて南部口をさし固め、えぞを防ぐと見えたり。さても、義臣すぐつてこの城にこもり、功名一時の草むらとなる。「国破れて山河あり、城春にして草青みたり。」と、笠うち敷きて、時の移るまで涙を落としはべりぬ。
  夏草やつはものどもが夢の跡
  卯の花に兼房見ゆる白毛かな  曾良 

【解釈】
   平泉
 奥州藤原氏三代の栄華も一眠りの短い間の夢のように、すっかり滅びて潰(つい)え去り、見渡せば、平泉館の大門の跡が一里ほど手前にあるわい。秀衡の住んだ館の跡は田野となって、彼が築いた金鶏山だけが当時のままの姿をとどめておる。
かくまわれた義経らの住まいであった高館に、まず登ってみると、北上川が眼下に見えるのお。これは南部地方から流れて来る大河じゃ。衣川は、忠衡の居城であった和泉が城を巡って、高館の下で北上川に流れ落ちておる。
泰衡らの住まいの跡は、衣が関の向こう、南部地方からの出入り口を固め、外敵の侵入を防ぐと見受けられる。
それにしても、義経は忠義の家来を選りすぐって、この高館にこもり、奮戦して名声を轟かせたが、それもひとときの夢と消え、その戦場のあたりは、いま、夏草が生い茂る草原となっておるわい。
国はほろびたが、山河は以前と変わらずにある。町には春が来て、草は青々と生い茂っている。」と、杜甫の「春望」の詩の一節を口ずさみ、笠を敷いて腰を下ろし、長い時間涙を落としてしまいましたよ。
その場で詠んだわたくしの句はこれです。
青々と生い茂る夏草!この野原は、昔、義経主従らが功名を求めて奮戦した末に、はかなく消えた名残の場所であることよ。

同行の弟子、曾良はこの句を詠みました。

白く咲く卯の花を見ていると、昔ここ高館で、主君義経のために白髪をふり乱して奮戦した老将兼房の姿が浮かんでくることだよ。            

今日の付録。

これは、在来種のクサガメでしょう。

「自然保護センターの」山の側の道縁に、一休みしていました。産卵のために池から登ってきたようです。通りかかった職員の方、もっともっと山道の高いところに登って産卵するでしょう。卵は、イタチや。蛇や、烏に食われてしまうことが多いです。と教えてくださいました。

「でも、この亀は臭いからきらい」と、正直に付け加えて、、、。

私も、近寄って嗅いでみようとは思いませんでしたが、子どもの頃の記憶では、イシガメ(石亀)にくらべて、クサガメ(臭亀)は、子ども達の間でも人気がな
かったことを覚えています。今では、外来のミドリガメの方が優勢になっていますが、私の子ども時代にはミドリガメなどいませんでした。

通りかかった年配の自然愛好家の方が(退院されて一週間足らずだそうで、杖をついてゆっくり歩いておられましたが)、「ペットショップで、売り上げた外来種は、必ず一件一件、買い手の登録をして、常に定期的に存在確認をすべきだ。飼えなくなって、川や池ににがすようなことのないように。」と、意気軒昂におっしゃっていました。まったくそうですね、とうなずくばかりでした。

卯の花の葉に止まったこのトンボ、件の自然愛好家氏は、「わかるか?」と問われます。「イトトンボですよね」と私が答えますと、「イトトンボでは足りない。アジアイトトンボじゃ」と教えてくださいました。

「アジアイトトンボ?その見分け方を教えてください。」と懇願いたしますと、「一言で言えるものではない。言ってもわからんじゃろう。」と、深遠なお答えが帰ってきました。まさしくおっしゃる通りです。

これは、コシビロトンボ。

特徴がはっきりしていますから、たぶん間違いないでしょう。



そのほかのとんぼやチョウについては、後日UPする予定です。

今日の付録

シランでしょうか?



ノアザミですね。







ササユリ。蕾です。







ガマズミ。





スイカズラ。



ヤマボウシ。

追伸;先日の早とちりの「オナガ」なる写真の件です。
我が先達のM師からもメールをいただき、doudesyo様のコメントのとおり、セキレイだろうと指摘、我が県内ではオナガの観察報告を聞いたことがないと付言がありました(汗)。合わせて、添付ファイルで、セキレイの親子の写真を何枚か送ってくださいました。とても可愛いので、1枚だけ紹介させて戴きます。

DSC_7326.jpg

ではまた。

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