SSブログ
<

そのとき十歳の私は、補遺 [今日の暦]

昨日の記事の仕上げの頃は、ほとんど居眠りをしながら作業していましたので、集中力が続きませんでした。そうでなくとも長い文章になっているので、ほどほどに切り上げりのは妥当と言えましょうが、もう一つだけ、胸を打たれたエピソードに紹介をしておきたいと思います。

昨日の記事に、「戦争は、一〇才の子どもたちの手元から大切なものを次つぎともぎ取っていき、岡山空襲は、いわばとどめに、街を、家を、家族を、友人を焼き尽くしました。」と書いた時に、もう一つ念頭にあったのはこのエピソードでした。







 クレパスの涙

その夜、ぐっすり眼っていた。祖母のただならぬ声。醒めきらない目に、 一面赤く染まった縁側のカーテンが映った。蚊帳の中を通いながら祖母は、「たえこ、くにこ空襲よ。たえこ、くにこ、早う、はよう」

と繰り返しながら、一年生の弟を抱えるように蚊帳をたぐっていた。

えっ空襲。

昼間の空襲警報の不気味なサイレンの音は何度も聞いて敏感になっていたが、サイレンの音は聞こえない。

同じ布団に寝ていた妹を揺り起し、手を引っ張って玄関から防空壕に逃げ込んだ。気が付くと妹は金魚柄、私は朝顔柄の浴衣の寝巻ににランドセルを背負っていた。

前後して父が四歳と二歳の第を、母は一歳になったばかりの弟を抱いて防空壕に入った。そこへ、一週問ほど前に離れへ疎開してきている親戚の年寄りと子どもが入ると、畳一枚ほどの防空壕は身動きできない。

この玄関前の防空壕は私の誕生記念に祖母が植えた八重桜の木を伐ってその跡に父が掘ったものだった。

一人で防空壕の外に立って様子を見ていた父は「こりゃひどい。家が焼けだしたら危ない。橋の下へ迷げよう」と、家族と観戚を次々に防空壕から出した。

轟音と共に黒い機影が不気味に一機また一機と頭上をいく。機影が視界から消えた合間に小腰を屈めて二人、三人と順番に地続きの畑の東側を流れる用水へ急ぐ。

用水の岸辺から見る南の空は燃え上がって赤く、その明かりに照らされたおびただしい数の機影が旋回し交錯しながら腹から焼夷弾の束を吐き出す。後からあとから降る黒い塊は、落ちながら火を噴き二十にも三十にも炸裂し、辺りを照らす。遠くで、近くでドーンドーン、ドーン、ザッザザーッ。止む間もな<聞こえる。

「あっ、来たっ」機影が近付くと目を瞑って橋の奥に逃げこむ。息を凝らして身を寄せ合っていると爆音が違のく。そっと橋の下から覗く。その間に父は家に駆け込み、先ずは先祖の位牌を、次に箪笥の引き出しを一本ずつ持ち出す。父が家に入つている間、心配で妹と抱き合つて「爆弾が落ちませんように」と析った。

空を焦がす炎は拡がるばかりだった。

「学校に落ちた」

誰かが叫んだ。いっも見慣れた二階建ての校合がまたたく間に燃え上がり、燃え盛る炎の中に、一段と高く立っていたドームのてっべんの尖塔が一瞬浮かびあがり、そして崩れ落ちた。私の御野国民学校が焼けた。

「クレパスが、クレパスが焼ける!」

とっさに頭をよぎった。泣き出したいほど胸が震えた。 学用品配給の籤引きで当たった、えんじ色の箱に入つた十二色サクラクレパスだった。私の宝物だった。

その日の前日、ハンカチに包んだクレパスと開墾用の鍬を持って登校した。クレバスは机の中に置いて三野公園下の旭川の中州に向かった。慣れない開墾と暑い陽の中を往復四キロも歩いて学校へ戻った私は、二階の教室へ寄る気にもなれず帰宅していた。

夜が白みかけたころ、ようや爆音は止み、機影も消えた。幸いみんなが最も心配していた隣の兵器廠も兵舎も被爆を免れた。家も家族も無事だった。

(中略)

人の波がいっとき途切れたときだった。煤けた顔の若い母親が晒のおんぶ紐で赤ちゃんをおんぶして、前を見やったまま裸足で歩いてきた。片手で小さな風呂敷包みを胸に抱きかかえ、他方の手を後ろに回し、赤ちゃんのお尻のあたりを支えていた。しかし弟と同じくらいの赤ちゃんは、胴体だけで頭は無かった。私は声も出なかった。祖母に駆け寄ったが、何といえばいいのやら、ただ祖母の胸に蹲っているだけだった。

低く垂れこめた空から、生ぬるい黒い雨がしょぼしょぼと降りだした。(後略)


十歳の少女が引き受けるには、余りにもむごく、痛ましい体験です。いま、地球上のどの子どもも、決してこのような辛さを味わうことのない、平和で理性的な世界を築かねば、と強く思います。「集団的自衛権」の名のもと、他国(アメリカ)がひきおこした地球の裏側の戦争にまでも、「わが軍」を派遣して戦闘に参加させ、「殺し、殺される」事態を招来するアベ流の「積極的平和主義」はごめんこうむりたい。消費税引き上げ延期、アベノミクスの評価を問うなどとして、選挙の争点をぼかしながら、あわよくば2/3の与党議席を獲得した暁には、一気呵成に「明文改憲」に突き進む、なんてシナリオ、なおさらごめんですよね。

今日掲載のアジサイは、六月二〇日の深山公園。
またまた枚数が増えました。




深山公園のアジサイ2016

深山公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg 


深山公園のアジサイ2016
深山公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg 


深山公園のアジサイ2016
深山公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg 


深山公園のアジサイ2016
深山公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg 


深山公園のアジサイ2016
深山公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg 


深山公園のアジサイ2016
深山公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg 


深山公園のアジサイ2016
深山公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg 

深山公園のアジサイ2016

深山  公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg 
深山公園のアジサイ2016
深山公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg 


深山公園のアジサイ2016
深山公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg 


深山公園のアジサイ2016
深山公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg 


深山公園のアジサイ2016
深山公園のアジサイ2016 posted by (C)kazg


今日はこれにて。


nice!(35)  コメント(0)  トラックバック(1) 

nice! 35

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

フォト蔵にアップしている私の写真はこちらです。

写真販売サイトにも画像を掲載しています。
写真素材 PIXTA


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。